伝熱モジュールアップデート

COMSOL Multiphysics®バージョン 5.3aの伝熱モジュールに新しい「流入」境界条件が加わりました. この境界条件を使って上流の温度と圧力を考慮することができます. 空気中の水分輸送をモデル化したマルチフィジックス連成インターフェースや, 吸収媒質中の輻射ビームをモデル化インターフェースなどが新しく追加されました. 新しい伝熱機能の詳細を以下をご覧ください.

新しい境界条件: 流入

新しい「流入」境界条件は, 仮想ドメイン(モデルからは除外されている)から来る熱流を上流条件とともに与えます. 従来は「温度」境界条件を与えていたような流入口にこの条件を与えると, 上流で起こる現象からの温度と圧力を考慮することができます. さらに, 流入口の隣接エッジ(または 2D ではポイント)で温度の拘束を含みません. その代わり, 上流条件と整合する熱流速を与えます. この条件は結果的により正確で現実に近い物理モデルを導きます. この境界条件を適用できる全てのアプリケーションライブラリモデルはこの境界条件を使ってモデルが更新されています.

水分流れマルチフィジックス連成

水分輸送を管理することは電子パッケージングやビルディング物理をはじめとする様々なアプリケーションで重要です. COMSOL Multiphysics® バージョン5.3a は熱伝導, 水分輸送, 流体流れをモデリングするマルチフィジックス連成をお届けします. 現実世界の熱や水分輸送の迅速で簡単なモデリングを可能にします.

前回のリリースでの水分モデリング機能を拡張して, 新しい「水分流れマルチフィジックス連成」ノードが追加されました. 層流と乱流の空気中における水分輸送をモデル化します. 単相流れインーターフェースの層流と乱流バージョンと空気中水分輸送インターフェースを連成します. 化学種輸送ブランチの水分流れ連成の利点は, 乱流混合と乱流流れの水分壁関数です. 非等温流れインターフェース, 伝熱, 水分マルチフィジックス連成と組み合わせると, ビルディング材料と湿潤空気における完全な熱と水分のモデリングが可能になります. 完全マルチフィジックス連成を実行するには, まず, 伝熱モジュールの湿潤空気と水分輸送カップリングを加えます. 次に層流, または, 乱流インターフェースを加えます. 最後に, 非等温流れと水分流れマルチフィジックス連成を追加します. それぞれのマルチフィジックス連成が追加されると, ソフトウェアは適当なシングルフィジックスインターフェースを自動で連成させます.

A diagram of how the Heat Transfer, Single-Phase Flow, and Moisture Transport interfaces are connected.

伝熱, 単相流れ, 水分輸送 インターフェースと関連するマルチフィジックス連成.

伝熱, 単相流れ, 水分輸送 インターフェースと関連するマルチフィジックス連成.

固体の不可逆転移

固体伝熱の固体ドメインノードの不可逆転移特性機能が拡張されて, 熱による不可逆転移をモデル化できるようになりました. アプリケーションとしては固体爆発や溶融の現象論的なモデリングがあります. 従来の「エネルギー吸収転移」モデルは名前を変えて「アレニウス反応速度論」となりました. 任意の次数nのアレニウス反応速度論方程式の多項式を指定するオプションにより, 反応速度の形態を増やすことができるようになりました.

さらに, この特性機能には転移モデル用に新たに「ユーザー定義」オプションが追加されました. このオプションでは「転移率」を設定することができ, 既定のどの転移モデルもふさわしくない場合や, 転移率が別のユーザー定義フィジックスか数学インターフェースで得られるような場合に特に有効です. このオプションを使うと, エンタルピー変化の指定, エネルギーバランスにおける熱の生成や損失の考慮, 転移状態の異なる熱特性を定義することができます.

等価薄抵抗層による熱接触モデリング

熱接触モデルのために「等価薄抵抗層」オプションが新しく導入されました. このオプションを使うと, 有効熱接触コンダクタンスに基づいて熱接触を定義することができます. これは有効熱接触コンダクタンスが熱測定から分かっている場合, または, 別の接触モデルで必要な表面特性が未知の場合に便利です.レイヤーコンダクタンスを定義するのに, レイヤーコンダクタンスそのもの, または, レイヤー抵抗, または, レイヤー熱伝導率と厚みを指定することができます.

A COMSOL Multiphysics screenshot showing the Equivalent thin resistive layer option. 熱接触ノードにおける新しい「等価薄抵抗層」オプション.
熱接触ノードにおける新しい「等価薄抵抗層」オプション.

任意流体の熱伝導係数ライブラリ

係数ライブラリの熱伝導係数は様々な形態について定義することができ, モデルには含まれていない外部流体流れによる加熱や冷却をシミュレートするのに使うことができます. 従来の流体材料の選択は空気, 水, トランスフォーマーオイルに限定されていました. COMSOL Multiphysics® バージョン5.3a では, 熱伝導係数を相関で定義する場合, 外部流体のために新たに, 湿潤空気と材料参照2つのオプションが導入されました.

流体オプションが湿潤空気に設定された場合, 正確な相関定義のため, 外部相対湿度を指定しなければなりません. 材料参照に設定された場合は, 材料ノードで任意の材料を選ぶことができます. 対応する材料特性によって選択された形態での熱伝導係数が定義されます.

改善された熱・水分輸送機能

潜熱源

熱・水分輸送マルチフィジックス連成は伝熱インターフェースと水分輸送インターフェースを組み合わせたものです. 蒸発や凝結が起きる場合, 大きな量のエネルギーを吸収するか放出します. この効果をモデルに含めることは重要なファクターです. 蒸発セクションに新しく導入された, 蒸発フラックスへの寄与チェックボックスを選択すると, 水分流束境界ノードで蒸発と, それに関連した潜熱元を考慮することができます.

さらに, 熱・水分マルチフィジックス連成インターフェースは水分輸送インターフェースで導かれた潜熱元を自動で定義します. 蒸発か凝結による熱流束は「濡れ表面」, 「湿潤表面」, 水分流束ノードで定義されますが, それらは伝熱方程式の中の対応する境界に追加されます. 熱・水分ノードの「潜熱」セクションに新たに導入された「表面の潜熱を含む」チェックボックスでそれが実行されます.


水分輸送係数

対流熱流束と同様, 水分流束も様々な配置のヌッセルト相関から定義してもよいでしょう. COMSOL Multiphysics®バージョン5.3aの伝熱モジュールでは, 熱と質量境界層のアナロジーから水分流束を定義することができます. 従って, 熱流束ノードにおける全ての異なるジオメトリと流体配置が水分流束でも可能になり, 対流水分流束を定義することができるようになりました. さらに, モデルに伝熱インターフェースが含まれているときには, 水分輸送係数の定義をマニュアルで定義せずに, 熱流束ノードで定義される熱伝導係数にリンクすることができます.

ベア・ランバート則による吸収媒質中輻射ビームインターフェース

レーザーなどの高強度輻射ビームは部分透過材料に照射されると急激に吸収され, 材料に熱を与えます.屈折輻射ビームの吸収を扱う古典的で効率的な数値計算モデルはベア・ランバート則です. 新しい吸収媒質中輻射ビームフィジックスインターフェースには, 吸収媒質の特性を定義したり, 図のように複数の入射ビーム(非可干渉の場合)をモデル化する機能が含まれています. さらに, 輻射を完全に吸収して熱を生成する不透明壁の指定や, ビームが熱を発生させずに境界を出て行くような透明境界を指定することもできます.

A screenshot of the COMSOL software GUI with a model using the Radiative Beam in Absorbing Media interface. 吸収媒質中輻射ビームインターフェースを使った解析モデル. 吸収媒質中で異なる方向に伝播して交差する二つのビーム.
吸収媒質中輻射ビームインターフェースを使った解析モデル. 吸収媒質中で異なる方向に伝播して交差する二つのビーム.

時間依存気象データの改善

最新バージョンの ASHRAE 気候データベース, 気象データービューワー, バージョン6.0 (c) を使って伝熱インターフェース, 外気設定セクションにおける外気変数を定義できるようになりました.

A cropped screenshot showing the improved time-dependent climate data in COMSOL Multiphysics version 5.3a. 新しい気候データ (ASHRAE 2017) オプション. 伝熱インターフェース, 外気設定セクションの外気変数を定義することができます.
新しい気候データ (ASHRAE 2017) オプション. 伝熱インターフェース, 外気設定セクションの外気変数を定義することができます.

形状記憶合金の熱伝導

形状記憶合金 (SMA) は温度と(オーステナイト↔マルテンサイト間の)構造変化と密接に関連しており, エネルギーを発生または吸収して合金の熱特性を変化させます. 伝熱インターフェースの「形状記憶合金」機能はマルテンサイトとオーステナイトの体積比率を説明します. そして, 有効熱特性がそれぞれの相の熱特性から定義されます. この機能は非線形構造材料モジュールの「形状記憶合金」機能と組み合わせるように作られています. これをモデルに含めるにはメインの伝熱インターフェースノードの「合金中の熱伝導」チェックボックスを選択します. 「形状記憶合金」機能はドメイン境界条件として使用します.

ヒートシンクのジオメトリパーツ (シェルバージョン)

薄シェルでの熱伝導のモデル化は, あなたのモデルの計算コストを減らすための大切なツールです. 伝熱モジュールのパーツライブラリの, ピン付き, ストレートフィン付き, ボーダーでの異形ピン付きのヒートシンクのモデルがシェルバージョンで更新されました. これらの新しいパーツは, 構造体を面で表現できる場合に薄構造のメッシュ化を避けることができ, 計算コストを低減できるというジオメトリに特化しています. 伝熱インターフェースの「薄層」機能と, 流体流れインターフェースの「内部壁」機能はこのようなシェル境界で使用することができます.

Two versions of a heat sink geometry produced with 3D and shell fins, respectively. 面取り3Dフィン付きヒートシンク (左) とヒートシンクパーツから生成されたシェルフィン (右).
面取り3Dフィン付きヒートシンク (左) とヒートシンクパーツから生成されたシェルフィン (右).

電磁加熱マルチフィジックス連成の新機能と改良された機能

新しい「電磁加熱」マルチフィジックス連成ノードは電磁波インターフェースと伝熱インターフェースのモデル連成の設定を簡単にします. 「電磁加熱源」と「境界電磁加熱源」と「温度連成」ノードを一つのノードで, 同じ機能にまとめました. このノード上で体積電磁加熱源のドメインや面電磁加熱源のサーフェスを選択することができます. さらに, このノードは伝熱インターフェースで計算された温度を電磁波インターフェースに引き渡します. 温度連成は自動で, 図のように, ドメイン選択と境界選択によりどのエンティティで連成がアクティブかを制御することができます. この機能はジュール熱のような電磁加熱, 誘導加熱, マイクロ波加熱, レーザー加熱をモデル化するときに使うことができます. 誘導加熱, マイクロ波加熱, レーザー加熱には別途追加のモジュールが必要です.

熱電気効果マルチフィジックス連成

新しい「熱電気効果」マルチフィジックス連成ノードは体積および面の熱電気熱源を熱方程式に組み込みます. さらに, ドメインや境界における温度差による電流密度に熱電気効果の寄与を加えます. この新しいノードはペルチェ効果, ゼーベック効果, トムソン効果をモデル化する「熱電気効果」と「境界熱電気効果」ノードを置き換えるものです. 「熱電気効果マルチフィジックス」連成機能は熱電気効果マルチフィジックスと, 新しい電磁加熱マルチフィジックス連成ノードのデフォルト機能です.

新しいチュートリアルモデル: 空気中浮力流れ

新しい空気中浮力流れチュートリアルモデルは2つの垂直プレートで挟まれ, 空気で充填された空洞内における自由対流の定常状態を計算します. 2つのプレートは異なる温度に保持され, 空気ドメインで浮力流れを誘起します. 層流流れになるように動作条件が決められます. モデルは 2D と 3D の2つのコンポーネントを含みます. 空気中の自然対流を考慮するための基本を学びます.

このモデルは既存の水中浮力流れと同じやり方で作られています. 主な違いは理想気体則に従う空気の密度が温度と圧力に依存することです.

A model of buoyancy flow in air, created with COMSOL Multiphysics 5.3a and the Heat Transfer Module. 2つの対向する垂直壁間の温度差が10Kの場合に, 浮力によって生じる温度分布 (等温線) と速度場 (矢印).
2つの対向する垂直壁間の温度差が10Kの場合に, 浮力によって生じる温度分布 (等温線) と速度場 (矢印).

新しいチュートリアルモデル: 円形チューブ内層流非等温流れ

この新しい検証チュートリアルモデルは円形チューブ内の速度, 圧力, 温度の分布を2D軸対称モデルで解きます. 動作条件は層流流れに対応します. この非等温流れ配置はよく研究されており, 流体と壁の熱流束が実験的に測定されています. 図はシミュレーションから導かれる熱伝達係数と, ある出版されたヌッセルト数に基づく結果とを比較しています. シミュレーション結果と実験結果はよく一致しています.

A model of laminar nonisothermal flow in a circular tube, created with COMSOL Multiphysics 5.3a and the Heat Transfer Module.

数値解の温度 (赤) から得られた熱伝達係数とヌッセルト数からの相関で得られる熱伝達係数 (緑と青) の比較

数値解の温度 (赤) から得られた熱伝達係数とヌッセルト数からの相関で得られる熱伝達係数 (緑と青) の比較

アプリケーションライブラリパス:
Heat_Transfer_Module/Verification_Examples/circular_tube_nitf_laminar

新しいチュートリアルモデル: 平板を越える乱流非等温流れ

この新しい検証チュートリアルモデルは板を越える速度, 圧力, 温度の分布を計算します. 流れが乱流で完全に発達している場合, 板上でホットスポットに達します. 空気流れと板の間の熱伝導係数は実験的に測定されており, ヌッセルト数ごとの相関データが得られています. シミュレーション結果は出版されているデータとよく一致します.

A model of turbulent nonisothermal flow over a flat plate, created with COMSOL Multiphysics 5.3a and the Heat Transfer Module. 数値解の温度(実線)から得られた熱伝達係数とヌッセルト数からの相関で得られる熱伝達係数(破線)の比較
数値解の温度(実線)から得られた熱伝達係数とヌッセルト数からの相関で得られる熱伝達係数(破線)の比較

アプリケーションライブラリパス:
Heat_Transfer_Module/Verification_Examples/flat_plate_nitf_turbulent

新しいチュートリアルモデル: ダイナミック壁熱交換器

出版された論文から触発されて作られたモデル, ダイナミック壁熱交換器チュートリアルモデルは, 振動波形で変形する壁のおかげで増強したパフォーマンスのコンパクト熱交換器を示します. 壁の振動は流体中で混合を促し, 熱境界層の形成を低減します. さらに, 波型変形は, 圧力損失を避けるぜん動ポンピングと同じようなポンピング効果を起こします. このモデルは「共役伝熱マルチフィジックス」連成と移動メッシュ機能で壁と流路の変形を取り扱います. 熱交換器を挟む圧力降下と全熱伝達係数が静的および動的な熱交換器について計算されます.

A model of a dynamic wall heat exchanger, created with COMSOL Multiphysics 5.3a and the Heat Transfer Module.

ダイナミック熱交換器流路内の温度分布.

ダイナミック熱交換器流路内の温度分布.

アプリケーションライブラリパス:
Heat_Transfer_Module/Heat_Exchangers/Dynamic_wall_heat_exchanger