AC/DCモジュールアップデート

AC/DC モジュールをご使用の場合, COMSOL Multiphysics® バージョン 5.2a では, Jiles-Atherton 材料モデルの採用により, 変圧器磁心や電気モータといった装置をリアルにモデル化できる他, 磁気遮蔽境界条件の更新により磁気飽和効果を伴う非線形材料に対応できるようになり, またコイル機能の向上など, 機能が強化されています. AC/DC モジュールのアップデートの詳細は, 以下のとおりです.

ヒステリシス Jiles-Atherton 材料モデル

ヒステリシスのための Jiles-Atherton 材料モデルは, 強磁性材料の重要な物性を捉え, 変圧器磁心や電気モータといった装置をリアルにモデル化します. この機能は, 磁場 フィジックスインターフェース (磁気ベクトルポテンシャル), 磁場, 電流なし インターフェース (スカラー磁気ポテンシャル), 回転機械, 磁気 インターフェースで利用可能です. また, 完全に異方性 (ベクトル) ヒステリシスのモデル化にも対応しています.

ヒステリシスに Jiles-Atherton 材料モデルを使用した例を示すアプリケーションライブラリへのパス: ACDC_Module/Other_Industrial_Applications/vector_hysteresis_modeling

飽和効果を伴う磁気遮蔽

非線形 BH 曲線を用いた磁気飽和モデリングへの対応を追加することで, 磁気遮蔽境界条件の機能強化を図りました. この機能は, 磁場 フィジックスインターフェース (磁気ベクトルポテンシャル), 磁場, 電流なし インターフェース (スカラー磁気ポテンシャル), 磁場と電場 インターフェース (磁気ベクトルポテンシャルとスカラー電位) で利用可能です. この効果は, 例えば光電子増倍管などの高感度電子部品のための薄型高透過性シールドを設計する際に重要となります. このようなシールドは飽和しやすく, 飽和上限を超過すると遮蔽効率がかなり低下します. 図は, 半径 0.5 m, 厚さ 0.5 mm のニッケル鋼スーパーマロイ球体シールドを示し, これに磁束密度 0.95 mT を垂直方向に均一に印加します. スライスプロットおよび矢印プロットは, 磁束密度の分布を示します. 球体右半分のサーフェスプロット (見やすくするため, 位置をずらして表示しています) は, ニッケル鋼スーパーマロイ層内の磁束密度を示します. 球体左半分のサーフェスプロット (見やすくするため, 位置をずらして表示しています) は, 水平方向中立面付近の100%飽和 (1) から最上部と最下部の不飽和 (高値) までの飽和度を示す層内の微分比透磁率を示します.

コイル機能の統合, 更新, 機能強化

磁場 および 磁場と電場 フィジックスインターフェースの単数巻コイル機能と複数巻コイル機能を1つのコイル機能にまとめました. これにより, ワークフローが簡素化され柔軟性が高まります.

  • コイルジオメトリ解析の前処理ステップで, 単一導体 (以前の<964>単数巻<965>) 3D コイルを処理できるようになり, 単数巻コイルよりもすぐれた収束特性を持つ任意形状の導体を磁性界面の励起源としてモデル化できるようになりました.
  • コイルジオメトリ解析機能で, ドメインコイルに加え, 境界コイルがサポートされるようになりました.
  • 電圧を印加した単一導体コイルを時間依存スタディで求解できるようになりました (磁場 フィジックスインターフェース).
  • 単一導体コイルが励起を外部電場として印加するようになり, ジオメトリ全体で物理的に意味のある電場となります.

ドメイン終端

電流 および 静電気 フィジックスインターフェースの終端機能をドメインレベルで使用できるようになりました. ジオメトリが複雑な電極の場合, 終端を境界レベルで使用する場合に多数の境界を選択しますが, このような場合に便利な機能です. 終端の選択ドメイン内の電位が未知である場合は求解されず, 変数に置換されます. これは, ジオメトリによって考慮される有限の厚さを持つ電極をモデル化する際に有用な機能です.

相互 (SPICE) 容量マトリックス出力

グローバルマトリックス評価機能の変換リストに新しいオプションが2つ加わり, マクスウェル容量マトリックス法から相互容量マトリックス法 (SPICE 容量マトリックスとも言います) へ変換できるようになりました (またはその逆も可). 一般的にマクスウェル容量マトリックスは静電場シミュレーションからの直接出力として得られるのに対し, 相互 (SPICE) 容量マトリックスは回路シミュレーションでの使用により適しています. この機能は, 静電気シミュレーションの終端スイープを行うと利用可能となります. 新しいオプションは, アドミッタンス (Y) マトリックス, インピーダンス (Z) マトリックス, S パラメーター (S) マトリックス間の換算など, 利用可能な既存の変換リストに追加されます.

更新されたチュートリアルモデル:

ベクトルヒステリシスモデリング このベンチマークモデルは, Testing Electromagnetic Analysis Method (TEAM) Problem 32 を再現し, 異方性磁気ヒステリシスのシミュレーションのための数値法を評価します. ヒステリシス三脚積層鉄心は, 2つのコイルによって生成される変動磁場の影響を受けます. Jiles-Atherton 材料モデル (磁場 インターフェースで利用可能になりました) を用いて材料の応答をシミュレートし, 公表されている実験データや数値データを再現します. 相互に位相を 90 度シフトさせたAC 電源によってコイルを励起し, 磁心の一部の領域で回転する磁場を作ります. 印加磁場の向きは主として xy 平面であるのに対し, 材料は異方性なので x 軸方向または y 軸方向に印加される磁場に対して異なる応答をします. 時間依存磁場を正確にシミュレートするにはベクトルヒステリシスモデルが必要であり, 1回のACサイクル (ヒステリシスループ1つに対応) の磁場の関数として磁束密度をプロットしてヒステレシス挙動を表示します. デフォルトの反復ソルバーの代わりに, 直接ソルバー (PARDISO) を使い, Aフィールドのゲージ修正機能を適用します.

アプリケーションライブラリへのパス: ACDC_Module/Other_Industrial_Applications/vector_hysteresis_modeling