伝熱モジュールアップデート

伝熱モジュールをご使用の場合、COMSOL Multiphysics® バージョン 5.2a では、気象データをシミュレーションに組み込むことができる他、共役伝熱モデルに浮力効果を含める定義済みオプション、生体熱材料データベースの新材料等、機能が強化されています。 伝熱モジュールのアップデートの詳細は、以下のとおりです。

6000以上の気象台の時間依存気象データ(2013年版ASHRAE)

伝熱 インターフェースの設定ウィンドウで Ambient Settings(環境設定) という新しいセクションを利用できるようになり、気温、相対湿度、絶対気圧、風速、太陽放射照度等の環境変数を定義できます。 これらの変数を一度定義すれば、以降は伝熱モジュールのすべてのインターフェースのいくつかの機能で入力として利用することができます。

デフォルトにより、環境変数はユーザーが指定します(ユーザー定義)。 または、世界各地の気象台が測定したデータをまとめた、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)発行の 2013年版ASHRAE ハンドブックに記載されている測定値の月平均値または毎時平均値から選択して計算させることもできます。 場所、具体的な時刻、使用可能な環境条件を選択できる設定が幾つか用意されています。 これにより、モデルに関連性のある場所の豊富なデータへのアクセスが迅速かつ容易になります。 デフォルトの条件は、所定の日付と時刻の平均値に対応しています。 多様な可能性の中でも、選択した気象台が記録した最高または最低気温にアクセスしたり、平均値に対応しているが標準偏差から1単位逸脱している値にアクセスすることができます。

過渡スタディを実施する場合、気象データはソルバーで設定されている時間範囲と自動的に同期されます。

気象データは変数の形で使用することができ、幾つかの機能の入力として利用できます。 例えば、熱流束機能で周囲温度、周囲絶対気圧、風速を相関に使い、伝熱係数を定義します。

インターフェースレベルで環境条件を定義することで、モデル全体の一貫性が保証され、また環境データについて定義の変動を防げます。 気象データの使用は、実データに基づく装置の動作条件の検証に有用です。 複数の条件オプションが用意されているので、望ましい安全域で極限条件または標準条件下の装置動作を試験することができます。

時間依存気象データ(2013年版ASHRAE)の使用例を示すアプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/Power_Electronics_and_Electronics_Cooling /condensation_electronic_device_with_diffusion

共役伝熱モデルに浮力効果を含める定義済みオプション

流体に密度差があるとすぐに見られる浮力効果は、重力が原因となって発生します。 ほとんどの場合、このような密度差は気体や液体の温度変化から生じます。 自然対流は浮力によって流れが駆動される構成に対応し、省エネルギー(自然対流は流体運動を誘導するので伝熱が向上するため、損失も大きくなる)や電子部品の冷却(自然対流を使用した冷却またはファンレス冷却は、機械装置を使わず騒音が出ないので高く評価されている)など多くの用途で重要なポイントとなります。 単相流 インターフェースで使用可能な新しい重力物性を使い、重力効果を簡単に含めることができます。

重力物性を選択すると、重力 サブノードがモデルツリーに追加され、重力加速度を編集することができます。 重力 サブノードは、インターフェースが有効なすべてのドメインの重力に対応する体積力を定義します。

流体方程式に重力を実装するには、相対圧力計算式(デフォルト)と減圧計算式の2種類の計算式が用意されています。 相対圧力計算式を選択すると、外部圧または外部全応力を用いる機能で静水圧(非圧縮性流)または静水圧近似(弱圧縮性および圧縮性流)を考慮に入れることができます。 減圧オプションを選択すると、従属変数として減圧を用いて、浮力の絶対値と比較して浮力の変化が小さい場合に適した流体方程式が定義されます。

共役伝熱モデルに浮力効果を含める定義済みオプションの使用例を示すアプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/Power_Electronics_and_Electronics_Cooling/circuit_board_nat_3D

熱・水分輸送マルチフィジックス連成

熱・水分の蓄積、潜熱効果、水分の液体・対流輸送を考慮に入れて、建築材料の連成した熱・水分輸送を組み合わせたモデル作成に新しいインターフェースと機能を利用することができます。 熱・水分マルチフィジックス連成では、建築部材におけるさまざまな水分変化現象をモデル化できます。 暖かい時季には、この機能を使い、建設初期の水分の乾燥、建物の外側から内側への水分輸送による結露をモデル化できます。 寒い時季には、この機能を使い、放散による間隙結露によって生じる水分蓄積をモデル化できます。

建築材料モデル

建築材料モデルは、建築材料の伝熱 インターフェースのデフォルトのドメイン機能ですが、任意の伝熱インターフェースに追加することができます。 この機能は、EN 15026:2007(建築部材および建築部位の温度・湿度性能 - 数値シミュレーションによる水分輸送の評価、CEN, 2007)から導いた偏微分方程式に従い、水と湿気を含んだ多孔質媒体をモデル化します。

乾いた材料と水含有量から、有効な温度特性を求めます。 また、水分輸送および蒸発潜熱から、熱源または吸熱源の項を求めます。

水分輸送インターフェース

水分輸送 インターフェースは、水分輸送をモデル化します。 デフォルトのドメイン機能「多孔質媒体」は、水分の蓄積、毛管吸引力、蒸気の対流輸送から成ります。 建築材料 機能と同様、EN 15026 から導いた偏微分方程式を実装します。

また、水分輸送 インターフェースは水分源、薄い水分バリア、水分含有量、水分フラックスを定義するための機能も用意されています。

単相流圧縮率

密度が一定であると仮定される非圧縮性流と、密度が任意に変化する可能性がある圧縮性流(Ma <1595/> 0.3)の中間オプションとして、新しい機能「弱圧縮性流」が導入されています。 弱圧縮性流機能を選択すると、密度は温度依存のみに限定されます。 材料特性が圧縮依存密度である場合、インターフェースで定義される基準圧力で評価されます。

このオプションは、圧力の変化が小さすぎて密度に有意の影響を与えない場合などの気体に特に有用です。 このような状況は、ほとんどの低速空冷用途で一般的に見られ、そのような場合には密度の圧力依存性を除去することで、計算パフォーマンスを大幅に向上できます。

単相流圧縮率機能の使用例を示すアプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/Applications/forced_air_cooling_with_heat_sink

空気の圧力依存を無視した場合の空冷シミュレーションの結果。 このプロットは温度場(ヒートカメラ)および流線(木星のオーロラ色)を示し、流線の厚さは速度に比例しています。

表面対表面放射のセクター対称条件

シミュレーションの計算コストを削減する一つの方法として、対称面または対称セクターを使うことでジオメトリを少なくする方法があります。 一般的な PDE シミュレーションから、対称境界条件を適用することができます。 表面対表面放射には、形態係数を評価する必要がありますが、評価時にジオメトリ全体を再構成しなければなりません。

この要件を克服するため、表面対表面放射の対称機能で 2D および 3D モデルに Sectors of symmetry(対称セクター) という新しいオプションを使用できるようになりました。 任意の数のセクターがサポートされており、各セクターの反射面を定義するためのオプションが提供されています。 このオプションを使うことで、対称形を持つジオメトリのセクターのみの形態係数を計算および保存して計算効率を向上できます。 さらに、シミュレーションの他のモデル変数についても自由度の数が減ります。

表面対表面放射に関するセクター対称条件の使用例を示すアプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/ Applications/inline_induction_heater

非等温流マルチフィジックス連成を相変化材料で使用可能に

相変化時の液相の動きをモデル化する従来からの方法として、相変化材料ドメイン全体の流体方程式の解を求めてから、特定の特性を固相の材料に割り当てる方法があります。 こうすることで、材料の固体部分が確実に不動に保たれるか、剛体運動を持ちます。 液体部分では、実際の液体特性が定義され、流体を計算することができます。 COMSOL Multiphysics® バージョン 5.2aでは、非等温流 マルチフィジックス連成を使い、相変化材料の伝熱と流体を組み合わせることができます。

非等温流 マルチフィジックスインターフェースと 相変化材料 サブノードと共に使用した例を示すアプリケーションライブライへのパス:

Heat_Transfer_Module/Thermal_Processing/continuous_casting

リファクタリングした不透明度機能

表面対表面放射で使用されていた不透明サブ機能が新しい不透明度機能に変わり、流体、以前の「流体の伝熱」、相変化材料、以前の「相変化を伴う伝熱」、建築材料、等温ドメイン機能など、すべての主なドメイン機能の下で利用することができます。 不透明度は、設定ウィンドウで Transparent(透明) または Opaque (不透明)を選択して設定します。

薄肉構造の伝熱

薄肉構造はジオメトリの縦横比が高くなり、メッシュが複雑になったり歪む原因となる可能性があります。 COMSOL Multiphysics® の以前のバージョンでは、薄肉シェルの伝熱 インターフェースを使い、固体のためのシェルモデルを使用することが可能でした。 COMSOL Multiphysics® バージョン 5.2a では、薄膜(流体)や亀裂内(多孔質媒体内)もモデル化することができます。 薄膜の伝熱 インターフェースと 亀裂内伝熱 インターフェースは、Select Physics(フィジックスの選択) ウィンドウの Heat Transfer(伝熱) ブランチの Thin Structures(薄肉構造) サブグループで利用することができます。

薄膜の伝熱 インターフェースは、流体における伝熱の方程式を実装します。 膜の流体速度は手動で入力することも、薄膜流、シェル インターフェースから得ることもできます。 亀裂内伝熱 インターフェースは、多孔質媒体における伝熱の方程式を実装します。 亀裂内の流体速度はユーザーが定義するか、亀裂内流れ インターフェースから計算することができます。

薄膜の一般的な定式化

薄膜機能で新しいオプション 一般的な薄膜 モデルが利用可能になり、膜厚全体の温度場の離散化を行えます。 この新しいオプションは、追加次元を定義して、膜厚全体の温度変化を考慮に入れます。 薄膜機能は、薄肉構造 インターフェースを含む任意の伝熱インターフェースで使用することができます。 この定式化は、ベアリングのモデル化などの用途に有用ですが、より一般的には膜の温度プロファイルを正確に表す必要がある場合、特に大きな熱源や膜に温度差がある場合に有用です。

多孔質媒体の伝熱でに圧力作用サブ機能を使用可能に

多孔質媒体の流体部分の温度は、圧力変化による作用の影響を受ける可能性があります。 これをモデルに反映させるため、圧力作用機能を更新し、自由流体に加えて多孔質媒体にも対応するようになり、多孔質媒体 モードのサブ機能として利用できるようになりました。

薄肉構造両側の温度のサポート追加

薄肉構造機能で用いる近似に応じて、薄肉構造両側の温度は均一であったり(熱的に薄い 近似)、厚みで変動する(熱的に厚い 近似または 一般 オプション)ことがあります。 COMSOL Multiphysics® 5.2a では 薄肉構造 インターフェースを更新し、表面対表面輻射機能(拡散面、拡散ミラー、既定のラジオシティー)で輻射が放射される側の薄肉構造表面温度を用いるよう改めました。 表面温度は、例えば評価表面放射強度の定義に使用し、プランクの法則に基づき評価します。

生体熱材料データベース

生体熱材料データベースを更新し、以下の材料を含めました。

  • 肝臓(ブタ)
  • 心筋(ヒト)
  • 心筋(ブタ)
  • 腎皮質
  • 腎髄質
  • 脾臓

これらの材料のほとんどすべてについて一次式または多項式により温度依存特性が提供されており、これ以外は定数値を利用できます。 また、前立腺材料の特性が更新されました。

新しいアプリ: インライン式誘導加熱装置

フェライト系ステンレス鋼は、価格が比較的低価格で安定しており、また成分にニッケルを含まないため、食品産業で多用されるようになりました。 クロムまたはモリブデンを添加することで耐食性を向上でき、またその磁気特性を利用した新しい技法を食品加工にもたらしています。

新しいインライン式誘導加熱装置アプリケーションは、フェライト系ステンレス鋼パイプを流れる液状食品を加熱するための磁気誘導装置の効率性を計算します。 液状食品を流しながら加熱するパイプに、円形の電磁コイルを巻き付けます。 コイルを通過する電流から発生する磁場によって渦電流が発生して誘導加熱が行われます。 最後に、本質的に伝導によって熱が液体に伝わります。

このアプリケーションを使い、パイプの数、長さ、肉厚、材質を変更して、さまざまなパイプ構成を調査することができます。 また、コイルの巻き数、導線の半径、電流密度、励起周波数を設定して調整することができます。 設計を最適化するために、流体の全体的な最大温度、出口における最低温度、出口における平均温度評価、加熱装置の熱効率がアプリケーションによって報告されます。

アプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/Applications/inline_induction_heater

更新されたチュートリアルモデル: 蒸発速度が大きい多孔質媒体での蒸発

多孔質媒体での蒸発は、特に食品産業や製紙業では重要なプロセスです。 流体、伝熱、関与する流体や気体の輸送など、多くの物理的影響を考慮しなければなりません。 これらの影響はすべて強く結びついており、伝熱モジュールの定義済みインターフェースを使い、これらの影響をモデル化することができます。

このチュートリアルモデルは、層流によって多孔質の物体を乾燥させる任意の場合を解説します。 入口では空気は乾燥しており、その含水量は空気が多孔質媒体を通るに従って増加します。 液相から気相への蒸発と共に多孔質媒体に多相流を実装する上で必要とされる追加のステップを中心に説明しています。 多孔質媒体の水飽和は経時的に計算されます。

アプリケーションライブラリへのパス:

Heat_Transfer_Module/Phase_Change/evaporation_porous_media_large_rate