プラズマモジュールアップデート

COMSOL Multiphysics® バージョン 5.3a のプラズマモジュールでは以前より桁違いに速くなった容量結合性プラズマインターフェースと, いくつかの新しい機能と, それを使ったチュートリアルが含まれています. 詳細は以下をご覧ください.

容量結合性プラズマの新しいフィジックスインターフェース

新しいインターフェース (時間周期) フィジックスインターフェースが容量結合性プラズマ (CCP) のモデリングのために導入されました. 従来と桁違いの計算速度になります. 時間領域で解かずに, 新しいアプローチによる周期定常状態解を計算します. このフィジックスインターフェースは, 1つのRF周期を表す基本的な数学方程式に次元を追加し, その次元で周期境界条件を強制します. これにより, 数千ものRFサイクルを解く必要がありません. そのようなアプローチではプラズマが周期定常状態解に至るまでに時間がかかってしまいます. 新しいアプローチではモデルの全ての非線形性を残したまま, 劇的に計算時間を短縮します: 1Dでは数秒, 2Dでは数時間で一つのパワー入力当りの計算が終了します. COMSOL Multiphysics の時間領域問題と比べて次の高速化が見られました (放電が周期定常解に達するまでに5万RFサイクルを仮定):

Dimension 計算時間 (バージョン 5.3) 計算時間 (バージョン 5.3a)
1D 10 時間 20 秒
2D 2 週間 1 時間

このモデリングアプローチには次の利点があります. 1. 追加次元とベースのジオメトリで実行される積分は方程式の中でも使うことができます. これにより, コンタクトとターミナルが固定電圧からではなく, 固定パワーから導かれます. これは数値安定性だけでなく, アルファからガンマ遷移が起こるような放電にも大切です. 2. 従来使われていたトラディショナルなアドホック法に代わって, 追加方程式によりDCバイアス自己 DC バイアスが簡単にモデル化できるようになりました. 3. 時間領域で問題を解かないので, 動作条件でのパラメトリックスイープが速く簡単になりました. 1D モデルではパワー, 圧力, 周波数などをたった数分でスイープすることができます. 4. マッチングネットワークを簡単にモデルに含めることができるようになりました. Lタイプマッチングネットワークでプラズマを駆動することができるようになりました. また基本周波数でのプラズマインピーダンスを計算することが簡単になりました. これはマッチングネットワークの計算に便利です. 5. この方法でもプラズマによって発生するハーモニクスを近似することなく分解することができます. 外部回路による駆動時に, どのように放電電流中のこれらのハーモニクスがインピーダンスのミスマッチの原因となるかを見ることができます. 6. この方法は近代のコンピューターのアーキテクチャに向いています. 再アセンブリ, メモリからの書出し, メモリへの書込みをステップごとに行う必要がありません. 計算時間のほとんどを疎行列の分解に使っているので, パラレル計算に向いており, 非常に高いフロップレートでの計算が可能です.

A demonstration of the Plasma, Time Periodic interface, new with COMSOL Multiphysics 5.3a.

アルゴンGEC CCP リアクターの2Dモデル. 新しい「プラズマ (時間周期) 」インターフェースで計算した周期平均電子密度が示されています.

アルゴンGEC CCP リアクターの2Dモデル. 新しい「プラズマ (時間周期) 」インターフェースで計算した周期平均電子密度が示されています.

プラズマ (時間周期) インターフェースの新機能

電気励起

新しいプラズマ (時間周期) インターフェースで計算では, 電極は固定電圧かまたは固定パワーで金属コンタクトかターミナル境界条件によって駆動することができます. 任意の数の周波数をモデルに含めることができ, 各周波数でのパワーまたは電圧を独立に指定することができます. 電極は平行 RC 回路, Lネットワーク, 逆Lネットワークなどの外部回路で駆動することもできます.

2次電子放出

2次電子放出は, 境界へ入射するイオン束による2次電子の直接再放出を通して計算するか, または, ビーミング効果を示すような2次電子の近似モデル, または一様モデルを使って計算します.

この機能を有効にするには, モデルビルダーで表示ボタンを押して, 詳細フィジックスオプションを選択しなければなりません. プラズマ (時間周期) ノードにおいて「時間周期」ノードの「2次放出モデル」セクションが現れます. そこで「表面放出」(デフォルト) か「一様放出」(5.3a新バージョン) かを選択することができます. 一様放出オプションが選択された場合, 2次放出モデルの「特性ギャップサイズ」と「ビームエネルギー」を定義することが可能です.

イオンエネルギー分布関数

容量結合性プラズマをモデル化するときにしばしば興味深いことですが, プラズマの解と粒子追跡モジュールを組み合わせることにより, このバージョンで新しくイオンエネルギー分布関数 (IEDF) とイオン角エネルギー分布関数 (IAEDF) を計算できるようになりました.

A plot of the ion energy distribution function for a CCP reactor.

エネルギーのダブルピークを示す IEDF. 中点は DC 自己バイアスとプラズマポテンシャルの和に対応します. IEDF の低エネルギー部分にもいくつかの明確なピークがあります.

エネルギーのダブルピークを示す IEDF. 中点は DC 自己バイアスとプラズマポテンシャルの和に対応します. IEDF の低エネルギー部分にもいくつかの明確なピークがあります.

NIST (国立標準技術研究所) 気体電子会議 (GEC) 容量結合性プラズマ (CCP) リアクターは CCP 研究の標準化されたプラットフォームを提供します.

最も単純なプラズマモデルでさえかなり複雑なので, 2D の例は過度のCPU時間を要することなく物理を理解するのに役立ちます. 新しいプラズマ (時間周期) フィジックスインターフェースを使用してアルゴン放電の周期的定常状態解を計算します. 文献の測定およびシミュレーションと比較して良く一致しています.

A plot from the Argon GEC CCP Reactor, 2D tutorial model.

1Wが印加されたGECリアクター内の周期平均電子密度 (1/m3). 計算された密度は文献による結果と良く一致しています.

1Wが印加されたGECリアクター内の周期平均電子密度 (1/m3). 計算された密度は文献による結果と良く一致しています.
 

GECリアクター内のパワー印加のアニメーション (W/m3).
 


GECリアクター内の電子密度のアニメーション (W/m3).


 


GECリアクター内の電気ポテンシャルのアニメーション (V).

アプリケーションライブラリパス:
Plasma_Module/Capacitively_Coupled_Plasmas/argon_gec_ccp

新しいチュートリアルモデル:アルファからガンマ遷移

容量結合性RF放電は, 放電パワーによって2つの異なる領域で動作します. α領域として知られている低パワー領域では, 電場振動は熱を発生し電子を生成します. γレジームとして知られている高パワー領域では, 放電は主としてプラズマシース内の電子雪崩によって持続されます.これは電極のイオン衝撃により放出される2次電子によって開始されます. これら2つの領域は, プラズマアプリケーションに重要な影響を及ぼす基本的な違いを示します.

このモデルでは, 新しいプラズマ (時間周期) フィジックスインタフェースを使用してこれら2つの領域をモデル化し, それらの間の遷移をモデル化します. 2つの領域の主な特徴を示す電子生成および電子によって吸収されるパワーについての結果を示します. 低パワー領域では, 放電により吸収される電力を増加させるために大きな電圧振幅が必要とされる一方, 高パワー領域では, 徐々に低くなる電圧振幅に対して高い放電パワーが達成されます.

A plot from the Alpha to Gamma Transition tutorial model.

プラズマに吸収されるパワーと電圧振幅の関数としての平均電子密度. 前述のように, 低パワー領域と高パワー領域を見分けることができます.

プラズマに吸収されるパワーと電圧振幅の関数としての平均電子密度. 前述のように, 低パワー領域と高パワー領域を見分けることができます.

アプリケーションライブラリパス:
Plasma_Module/Capacitively_Coupled_Plasmas/alpha_to_gamma_transition

新しいチュートリアル:2D CCPリアクターのイオンエネルギー分布関数の計算

プラズマ処理技術は, 表面の化学的および物理的特性を改変するために産業界で広く使用されています.プロセスの中には, 強力なイオン衝突および高度のイオン速度異方性を必要とするものがあります. そのようなプロセスにとってはイオンエネルギー分布関数 (IEDF) および表面における速度分散を知ることは大きな価値があります. このチュートリアルモデルでは, 市販の CCP リアクタにおける電極表面の IEDF を計算します. 計算された IEDF と実験測定値が良く一致することを示します.

A plot from the Computing the IEDF in a 2D CCP Reactor tutorial model.

商用 CCP リアクター内の周期平均電気ポテンシャル (V). リアクターは非対称のため, 電極上で負のDC自己バイアスを生成します.

商用 CCP リアクター内の周期平均電気ポテンシャル (V). リアクターは非対称のため, 電極上で負のDC自己バイアスを生成します.

アプリケーションライブラリパス:
Plasma_Module/Capacitively_Coupled_Plasmas/ccp_ion_energy_distribution_function

新しいチュートリアルモデル:プラズマインピーダンスの計算

このチュートリアルモデルでは, どのようにして容量結合性プラズマのインピーダンスを計算するかを示します. これはマッチングネットワークの設計に役立ちます. 時間周期スタディは, プラズマの周期的な解を計算し, 時間領域に変換し, その後高速フーリエ変換 (FFT) ソルバーを呼び出します. これにより, 与えられた入力パラメーターセットに対してプラズマインピーダンスを計算することが可能になります.

A power deposition plot from the Computing the Plasma Impedance tutorial model.

イオン, 電子, および両方の合計に対する期間平均印加パワー. バルクでは電力吸収は電子によって支配されますが, プラズマシースではイオンによって支配されます.

イオン, 電子, および両方の合計に対する期間平均印加パワー. バルクでは電力吸収は電子によって支配されますが, プラズマシースではイオンによって支配されます.


アプリケーションライブラリパス:
Plasma_Module/Capacitively_Coupled_Plasmas/computing_plasma_impedance

新しいチュートリアル:インピーダンスマッチング

このチュートリアルモデルはL型マッチングネットワークを使用して容量結合プラズマを高パワーと低パワーで駆動します. 低パワーでは, 電流の高調波が低く, 選択されたパワーの値で完全なマッチングが得られます. パワー, 周波数, 圧力のスイープを行い, 整合電力伝達比と効率に与える影響を調べます. 最後に, より高いパワー範囲でスイープを実行し, 電流に生じる大きな高調波がインピーダンスの不整合を発生させます.


A plot from the Impedance Matching tutorial model.

印加周波数の関数としての最大電力伝達係数と効率のプロット. L整合を 13.56 MHz に設定してあります. 期待通り, 13.56 MHz での最大電力伝達係数は1で効率は厳密に0.5です.

印加周波数の関数としての最大電力伝達係数と効率のプロット. L整合を 13.56 MHz に設定してあります. 期待通り, 13.56 MHz での最大電力伝達係数は1で効率は厳密に0.5です.

アプリケーションライブラリパス:
Plasma_Module/Capacitively_Coupled_Plasmas/impedance_matching