伝熱モジュールアップデート

COMSOL Multiphysics®バージョン6.0では, 伝熱モジュールのユーザー向けに, 表面対表面放射のために改良された計算性能や, 形態係数の保存機能のほか, ペレットベッドの伝熱をマルチスケールモデリングするための新しいパックドベッドインターフェース, およびいくつかの新たなチュートリアルモデルが追加されました. 伝熱モジュールのアップデートについては, 以下をご覧ください.

かつてないほど向上した表面対表面放射の計算性能

ヘミキューブ法を用いた場合の, ラジオシティ方程式の定式化などが, 新たに表面対表面放射インターフェースに実装されました. 改良されたソルバー設定を組み合わせると, これらの計算に必要な CPU 時間とメモリ要件を10分の1に削減できます. これらの性能向上は, 旧バージョンと比較すると, 精度を犠牲にすることなく実現されています. さらに, 必要なメモリ量が減少したことで, はるかに大規模な構造を解析することが可能になりました. これは, 温度差が大きい, 表面の放射率が高い, あるいは伝導や対流による伝熱が少ないといった状況では特に重要です.

この新機能は, 新しいHeat Transfer in a Room with a Stoveモデルと, 以下の既存モデルで確認できます:

A heat sink model with an array of chips showing the radiosity in the Heat Camera color table.
乱流からチップアレイを冷却する際のヒートシンクのラジオシティ. チップの状態が異なるため, 散逸電力, 温度, ラジオシティに違いが生じています.

表面対表面放射のための形態係数のディスクストレージ

表面対表面放射インターフェースに, 新しいディスクに形態係数を保存するオプションが追加されました. このオプションをオンにすると形態係数は, 一度計算された後, モデルに保存されます. したがってメッシュが変更されておらず, 放射形態の変化がユーザー定義の閾値以下であれば, 再計算する必要はありません. これにより, 一般的には鏡面や半透明の表面などの形態係数の計算が必要な場合に, 計算時間を大幅に短縮することができます. これには研磨やテクスチャー加工された金属壁を持つアプリケーションが含まれます.

A living room model with a stove showing the radiative heat flux in the Heat Camera color table.
ストーブで暖められた部屋の表面からの放射熱流束.


この新機能は, 新しいHeat Transfer in a Room with a Stoveモデルと, 以下の既存モデルで確認できます:

改良された表面対表面放射

In addition to the computational improvements and the possibility to store the view factors on disk as described above, COMSOL Multiphysics®バージョン6.0では, 上記のような計算能力の向上や形態係数をディスクに保存できるようになったことに加え, ユーザーインターフェースが簡素化されました. これには, 移動メッシュ使用時の形態係数更新の操作, シェルの2つの面での異なる属性の定義, スペクトル帯エンドポイントの単位の編集などが含まれます. 規定のラジオシティ機能は, 表面対表面放射法レイシューティングに設定されている場合, 方向依存性をサポートします.

重要な改善点は, ラジオシティはエッジではデフォルトで不連続である, と想定されることです. これは物理的な要因によるもので, エッジでつながった2つの面のうち, 片方だけが太陽放射を浴びる場合に示すことができます. これにより, 計算上のロバスト性が向上しました. こうして, 形態係数を計算するためのレイシューティング法が, 2D 軸対称のジオメトリでも利用できるようになりました.

この新機能は, 新しい Heat Transfer in a Room with a Stoveモデルと, 以下の既存モデルで確認できます:

A parasol model with two coolers showing the surface radiosity.
表面のラジオシティ. 左クーラー表面のラジオシティは, エッジの新しい処理を示しており, このモデルの異なる太陽の照射量に起因する大きな変化を表現することができます.

ペレットベッドのマルチスケール伝熱

ペレットベッドでの伝熱をモデル化するために, ペレットベッドの伝熱インターフェースが新たに追加されました. ペレットベッドは, 流体とペレットで構成された多孔質媒体として表現されます. ペレットは, 温度が放射状に変化する均質化された球状多孔質粒子としてモデル化されます. ペレット内の温度分布は, パックドベッドのすべての位置に対して計算されます. これは, ペレットの表面と流体の間の間質熱流束を介して, 周囲の流体の温度にカップリングされます.

この新機能は, 化学種の輸送に対応する機能と組み合わせると, パックドベッド熱エネルギー貯蔵システムの熱や, パックドベッドの化学反応をモデル化する際に有用です. この新機能は, 新しいPacked Bed Thermal Energy Storage Systemチュートリアルモデルで確認できます.

A single pellet bed model showing the temperature distribution within in the Heat Camera color table.
ジオメトリの中央に位置する固体ペレット内の温度分布.

Eleven pellet beds on a domain showing the temperature distribution in the Heat Camera color table.
ドメイン全体の流体とペレットの温度.

多孔質体の伝熱

多孔質媒体の伝熱機能が刷新され, よりユーザーフレンドリーになりました. 新しい多孔質媒体のフィジックスエリアは, 伝熱ブランチの下に備わっており, 多孔質媒体の伝熱, 局所熱非平衡, パックドベッドの伝熱などのインターフェースが利用可能です. これらすべてのインターフェースの機能は似ていますが, 異なる点は, インターフェース内のデフォルトの多孔質媒体ノードで, 局所熱平衡, 局所熱非平衡, またはパックドベッドの3つのオプションの内, いずれかが選択されていることです. 後者のオプションについては前述のとおりです. マルチフィジックスカップリングの代替として登場した, 局所熱非平衡インターフェースは, 流体相と固相の2つの温度モデルに対応しています. 典型的な応用例として, 多孔質媒体を急速に加熱または冷却することが挙げられます. これは, 金属発泡体のように, 液相では強い対流が, 固相では高い伝導があるためです. 局所熱平衡インターフェースを選択すると, 多孔質媒体の構成に応じて, 有効な熱伝導率を定義するための新しい平均化オプションが利用できます.

さらに, 後処理のための変数は, 3種類の多孔質媒体の均質化された量を統一した形で利用できます. この新しい多孔質媒体の機能は, 以下の既存のチュートリアルモデルで確認できます:

多孔質材料の取り扱いを大幅に改善

多孔質材料は, 吸湿性多孔質媒体ノードの位相差特性テーブルで定義されるようになりました. さらに, 固体と流体の機能にサブノードを追加し, 各相に複数のサブノードを定義することができます. これにより, 材料の特性や設定を重複させることなく, 1つの同じ多孔質材料を流体の流れ, 化学種の輸送, および熱伝導に使用することができます.

非等温反応流

非等温反応流モデルを自動的にセットアップする非等温反応流マルチフィジックスインターフェースが追加されました. 反応流マルチフィジックスカップリングに, 化学インターフェースと伝熱インターフェースをカップリングするオプションが追加されました. このカップリングを使用すると, 相変化のエンタルピーやエンタルピー拡散項といった, 熱と化学種の方程式間の相互的な寄与がモデルに含まれます. さまざまな量や材料特性の温度, 圧力, 濃度依存性も自動的に考慮され, 対応する事前定義された変数を使用して熱とエネルギーのバランスを取ることができます. この新機能は, 既存のDissociation in a Tubular Reactorチュートリアルモデルで確認できます.

A tubular reactor model showing the temperature distribution in the Rainbow and Heat Camera color tables.
管型反応器の温度分布.

水分の蒸発と凝縮に対する壁面での速度

蒸発や凝縮などの表面反応により, 表面と周囲のドメイン間で正味の蒸気収束が発生します. このような反応は, ステファン速度と呼ばれるドメイン境界で有効な湿った空気の速度に対応します. 大きな蒸発量が予想される場合は, システム全体の動作に重要な影響を与える可能性があるため, ステファン流を考慮する必要があります. 水分流れマルチフィジックスカップリングで, 水分輸送インターフェースに濃縮化学種定式化が使用されている場合, 壁でのステファン速度を考慮するチェックボックスが使用できるようになりました. これは通常, 50°C以上の高い温度での蒸発や凝縮のアプリケーションに推奨されます. この機能は, 新しいModeling of Stefan Flow Due to Evaporation from a Water Surfaceチュートリアルモデルで確認できます.

A model with isosurface plots showing the relative humidity in blue and red streamlines showing the velocity.
周囲温度が90°Cの場合の蒸発面上のステファン流による相対湿度等値面と速度流線.

水分輸送の改良

水分輸送インターフェースには, 周期構造のシミュレーションドメインを縮小したり, 代表的なセルから有効な特性を評価したりできる, 周期条件機能が追加されました. さらに吸湿性多孔質媒体機能は, 従来の多孔質材料の機能の設計に合うようにアップデートされました. エネルギーバランスの変数が最適化され, はるかに迅速な評価が可能になったほか, 質量収支をチェックするための新しい変数が利用可能になりました. 水分輸送の改良については, 新しいDrying of a Potato Sampleチュートリアルモデルや以下の既存モデルで確認できます:

A 2D potato sample model showing the relative humidity in the Jupiter Aurora Borealis color table.
乾燥した空気の流れにさらされたジャガイモのサンプルの相対湿度.

吸収および散乱媒体における放射の半透明境界条件

新しい半透明表面機能は, 吸収, 散乱媒体中の放射インターフェースで利用できます. 外部境界では, 外部放射強度を指定して, 表面を拡散的または鏡面的に透過する入射強度の部分を考慮することができます. 内部境界では, 表面の両側の放射強度が考慮されます. この境界条件は, 半透明媒体サンプル上の透明な媒体からの入射輻射線をモデル化する場合に特に役立ちます. たとえば, 関与媒体の放射特性の評価をモデル化する場合などです.

積層シェルの曲率における伝熱

シェル内の伝熱を記述するための定式化が改良され, 表面の曲率が層の寸法に与える影響を考慮できるようになりました. 高度に湾曲した積層シェルの場合, 内側の表面や層の面積および体積は, それぞれ外側の層とは大きく異なります. この改良により, 構造力学ブランチの積層シェルインターフェースは, 湾曲した厚い表面を正確に処理できるようになりました. このアップデートは, 新しいLumped Composite Thermal Barrier with Shellsチュートリアルモデルと, 以下の既存モデルで確認できます:

集中温度系とシェル間のコネクター

新しい集中系コネクター集中系コネクター, インターフェース条件はそれぞれ, 層の側面または表面を通って, 集中温度系をシェルに接続するために導入されました. コネクター機能では, Source, Pextコンボボックスで利用可能な外部端子オプションを選択するだけで, シェルエンティティを集中温度系インターフェースの対応する外部端子に接続することができます. この機能は, 新しいCoupling a Finite Element Model for Heat Transfer with a Lumped Thermal Systemチュートリアルモデルで確認できます.

相変化界面

外部境界に適用するために, 相変化界面, 外部境界条件が新たに追加されました. これは, 相の一方がガス状で, 容易に逃げてしまう場合に特に有効です. 既存の相変化界面境界条件は, 内部境界にのみ適用できるようになりました. 相変化界面および相変化界面, 外部境界条件は, 固体の鋳造速度を考慮し, 界面での流体相の速度を定義できるようになりました. この新機能は, 新しいContinuous Casting — Arbitrary Lagrangian–Eulerian Methodチュートリアルモデルと, 既存のFreeze DryingおよびTin Melting Frontモデルで確認できます.

A rod model showing the temperature and phase change in the Thermal Light color table.
成形中のロッドの温度と相変化界面.

核沸騰をモデル化するための熱流束オプション

核沸騰とは, 伝熱係数が非常に大きくなるプール沸騰のレジームのことです. その特徴は, 表面の温度が流体の飽和温度よりも高く, 核生成サイトと呼ばれる表面上にある多数の好発部位で蒸気が発生することです. 核沸騰は, 適度な温度勾配で高い伝熱係数が得られるため, さまざまな工学プロセスで利用されています. 新しい核沸騰熱流束が, 熱流束ノードの事前定義されたオプションとして利用できるようになりました. この実装は Rohsenow 相関に基づいており, 相関を定義するために必要な係数は, 一部の液体や表面タイプに対して事前定義されています. また, ユーザー定義の係数を入力することも可能です. このアップデートは, 新しいCooling of a Nickel Cylindrical Rod with Nucleate Boiling of Waterチュートリアルモデルで確認できます.

薄い構造物における伝熱の改良

計算性能を最適化するために, いくつかの変更が加えられました. モデリングの観点から, 薄い構造(薄層, フィルム, 破損)に対する新しい対称性境界条件が使用可能となり, ジオメトリや操作条件が対称である場合に計算コストを削減できます. 数値の観点から, 層タイプが熱的に薄い近似に設定されている場合, 新しい層ごとの定数プロパティオプションが使用可能で, これは熱的に薄い構造に対してデフォルトでアクティブになっています. 材料特性が層ごとに一定であり, なおかつ層や層の温度によって変化すると仮定することで, 大幅な高速化が得られます. これは積層材料を離散化するために使用されるメッシュ要素の数が重要な場合は, 特に有効です. これらの新しい改良点は, 新しいLumped Composite Thermal Barrier with Shells, Cooling of a Nickel Cylindrical Rod with Nucleate Boiling of Waterチュートリアルモデル, および以下の既存のモデルで確認できます:


A rod model showing the temperature distribution in the Heat Camera color table.
冷却プロセスにおけるロッド内の温度分布.

マランゴニ効果

マランゴニ効果は, 2つの相の間の界面に表面張力の勾配がある場合に発生します. 表面張力の勾配は, 濃度勾配または温度勾配に起因することがあります. 温度依存性の場合, マランゴニ効果はサーモキャピラリー対流とも呼ばれます. マランゴニ効果マルチフィジックスカップリングがアップデートされ, 表面張力の接線効果と法線効果の両方が考慮されるようになり, 接触角を定義できるようになりました. 最後に, 新しい定式化により, 計算性能が向上しました. マランゴニ効果は, 溶接, 結晶成長, および金属の電子ビーム溶解の分野で最も重要です. これらの新たなアップデートについて, 既存のMarangoni Effectチュートリアルモデルで紹介しています.

大ひずみの熱伝導率モデル

伝熱インターフェースの固体機能の材料変形モデルに, 大ひずみオプションが新たに追加されました. これにより, 材料の加工中に大きな塑性変形が発生した場合などの熱伝導率の挙動をより適切に捉えることができます.

新しいチュートリアルモデル

COMSOL Multiphysics®バージョン6.0では, 伝熱モジュールにいくつかのチュートリアルモデルが新たに追加されました.