光線光学モジュールアップデート
COMSOL Multiphysics®バージョン6.0では, 光線光学モジュールのユーザー向けに, 光学材料ライブラリが大幅に改良され, 500を超える光学ガラスの光分散係数や内部透過率とともに, 構造特性や熱特性のデータが備わっています. また, ガウシアンビームや表面からの黒体輻射のモデル化のために, 新たな光線出射機能が導入されました.
光学材料ライブラリの改良
光線光学モジュールや波動光学モジュールで利用可能な光学材料ライブラリには, SCHOTT AG, CDGM Glass Company Ltd., Ohara Corporation, Corning Inc. 社製のガラスの, より包括的な材料データが用意されています. これらのガラスの多くには, 光分散係数と熱光学係数に加えて, 内部透過率, 密度, ヤング率, ポアソン比, 線形熱膨張係数, 熱伝導率, 比熱容量が備わっています. このように光学ガラスの材料データが充実してきたことで, 構造, 熱, 光学性能 (STOP) の連成解析モデルの設定が, これまでになく容易になりました.
これらの改善は, 以下の新しい Petzval Lens Optimizationおよび既存のチュートリアルモデルで確認できます:
- cross_grating_echelle_spectrograph
- double_gauss_lens
- double_gauss_lens_image_simulation
- gregory_maksutov_telescope
- light_pipe
- petzval_lens_geometric_modulation_transfer_function
- petzval_lens_stop_analysis
- petzval_lens_stop_analysis_isothermal_sweep
- petzval_lens_stop_analysis_with_hyperelasticity
- petzval_lens_stop_analysis_with_surface_to_surface_radiation
- petzval_lens
- schmidt_cassegrain_telescope
- white_pupil_echelle_spectrograph
吸収媒体を定義する新しい方法
幾何学的光学インターフェースには, 吸収媒体を定義する新しい方法があります. 1つは, シンプルに減衰係数を指定する方法です. または, 内部透過率を入力する方法もあります. 内部透過率とは, 表面でのフレネル損失を無視して, 所定の厚さの材料サンプルを透過する光強度の割合です. 光学材料ライブラリにある多くの材料は, 内部透過率データのルックアップテーブルを含むことで, 吸収特性を操作できるようになりました. 以前のバージョンでは, 吸収媒体を設定するには, 屈折率の実数部と虚数部を直接入力するしかありませんでした (虚数部または負の虚数部は, 消衰係数と呼ばれることもあります).
ガウシアンビーム光線出射機能
光線の強度やパワーを解く際に, ガウシアンビーム光線出射機能が利用できるようになりました. これを追加することで, 初期強度やパワーのガウシアン分布の光線を出射させることができます. ビームウエスト半径, ビーム発散半角, またはレイリー長を指定すると, ビームの強度プロファイルが自動的に計算されます. ガウシアンビーム機能は, 2つの異なる方法で使用できます. ビームのレイリー長がモデルジオメトリと比較して非常に小さい場合, この機能はビームを点光源として扱い, そこからの光線は角度に依存した初期強度の円錐分布に従います. また, レイリー長がジオメトリサイズよりも大幅に大きい場合は, 光線がすべて平行に進むコリメートビームを出射することもできます.
黒体輻射光線出射機能
理想的な黒体輻射源のパワーと波長分布を持った光線を表面から出射できるようになりました. この黒体輻射専用の機能は, 3D モデルで利用可能であり, 表面温度に基づいて出射された光線の初期強度とパワーを割り当てます. 幾何学的光学インターフェースが, 多色光の出射を可能にするよう設定されている場合, 光線の波長または周波数は, 表面温度に基づくプランク分布関数から自動的にサンプリングされます. グリッドからの出射や境界からの出射といった, より一般的な光線出射機能でも, プランク分布に従った多色光の出射は可能ですが, この場合, 初期光線の強度とパワーは個別に指定します.
初期強度分布を指定する新しい方法
初期の光線パワーを重み付けされた分布で光線を出射するための, 新しい設定が利用できます. 出射やグリッドからの出射などの, ほとんどの光線出射機能の設定では, 初期強度やパワーの重み付けされた分布の割り当てを選択できます. すべての光線パワーの合計値は, 指定された光源パワーの合計値になりますが, 個々の光線パワーは, 初期光線の位置と方向の関数になり得る, 重み付け係数に比例することができます. これを利用して, カスタム光線源に指向性を割り当てることができます.
ファイルから光線座標を読み込む際の変換
データファイルから出射ノードを使用してファイルから光線出射位置を読み込む際に, 初期座標に変換を適用できるようになりました. 拡張 (スケーリング), 回転, 平進移動を自由に組み合わせることができます. また, 初期光線の方向もファイルから読み込まれている場合, オプションとして, 位置と方向の両方に同じ回転を適用できます.
より容易になった屈折率とアッベ数のポスト処理
ヘリウム d 線, 水素 F 線, 水素 C 線の屈折率について, ポスト処理用の変数が組み込まれました. アッベ数も定義されています. これらの組み込み変数は, あらゆるプロットタイプ (たとえば, スライスプロットやボリュームプロットなど) で使用でき, 光線光学モデルのすべての光学ガラスの屈折率, または分散を可視化することができます. これらの新しいポスト処理機能は, 既存のdouble_gauss_lensとPetzval Lensのチュートリアルモデルで確認できます.

非局所カップリングの簡略名
幾何光学インターフェースは, モデル内の光線の式の合計, 平均, 最大, または最小を計算するためにカップリングを定義します. 今バージョンでは, これらのカップリングの名称が, より使いやすいように簡略化されています. 以下の既存のモデルでこの変更を確認できます:
- Czerny-Turner Monochromator
- Petzval Lens Geometric Modulation Transfer Function
- Ray Release Based on a Plane Electromagnetic Wave
- Ray Release from a Dipole Antenna Source (2D Axisymmetric)
- Ray Release from a Dipole Antenna Source (3D)
以下の表は, 新旧のカップリング名の一覧です.
カップリング名 | 旧名 | 新名 |
---|---|---|
Sum over rays | gop.gopop1(expr) | gop.sum(expr) |
Sum over all rays | gop.gopop_all1(expr) | gop.sum_all(expr) |
Average over rays | gop.gopaveop1(expr) | gop.ave(expr) |
Average over all rays | gop.gopaveop_all1(expr) | gop.ave_all(expr) |
Maximum over rays | gop.gopmaxop1(expr) | gop.max(expr) |
Maximum over all rays | gop.gopmaxop_all1(expr) | gop.max_all(expr) |
Minimum over rays | gop.gopminop1(expr) | gop.min(expr) |
Minimum over all rays | gop.gopminop_all1(expr) | gop.min_all(expr) |
Evaluate at maximum over rays | gop.gopmaxop1(expr, evalExpr) | gop.max(expr, evalExpr) |
Evaluate at maximum over all rays | gop.gopmaxop_all1(expr, evalExpr) | gop.max_all(expr, evalExpr) |
Evaluate at minimum over rays | gop.gopminop1(expr, evalExpr) | gop.min(expr, evalExpr) |
Evaluate at minimum over all rays | gop.gopminop_all1(expr, evalExpr) | gop.min_all(expr, evalExpr) |
旧名称はバージョン6.0でも機能するため, 既存のモデルを更新する必要はありません.
電場からの出射
隣接する領域から, 完全波動有限要素法 (FEM) 解に基づいて, 初期強度と偏光の光線を出射することがより容易になりました. 電場から出射ノードを使用すると, 隣接する領域で求解された場のポインティングベクトルから光線の初期方向を直接取得できるようになりました.
湾曲格子の改善
湾曲した回折格子の溝間隔の解釈がより明確になり, カスタマイズも容易になりました. 指定された格子定数を格子表面の溝間の距離として解釈するか, あるいは指定された格子定数を実際に接平面の溝間の投影距離とするかを選択できます. この機能は, 新たなRowland Circle Spectrometerで確認できます.
新しいチュートリアルモデル
COMSOL Multiphysics® バージョン6.0では, 光線光学モジュールに新たに3つのチュートリアルモデルが追加されました.
ローランド円スペクトロメーター

アプリケーションライブラリのタイトル:
rowland_circle_spectrometer
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