正しい方向への一歩:トカマク設計における交流損失のモデリング

UK Fusion Energy Ltd. が主導する STEP Fusion は, Demcon Multiphysics と協力し, Spherical Tokamak for Energy Production プログラムの核融合システムで予想される交流損失を計算しました.


Joseph Carew 著
2026年6月

年を追うごとに, 世界はグリッド規模の核融合エネルギーの実現に近づいています. この目標を現実のものとするため, 各組織は核融合炉の設計に多大な資源を投入しています. そのような組織の一つが, 英国原子力公社 (UK Atomic Energy Authority, UKAEA) の子会社である UK Fusion Energy Ltd. です. 同社は, 2040年代初頭に核融合エネルギープラントのプロトタイプを実現することを目指す Spherical Tokamak for Energy Production (STEP) プログラムを主導しています. STEPは, 希土類バリウム銅酸化物 (ReBCO) 高温超電導 (HTS) 磁石によって実現される, 高性能な球状トカマク設計を基盤としています. これらの磁石は, 従来の導体よりも大幅に高い磁場での運転を可能にし, 核融合出力密度を高めるとともに, 発電所規模の原子炉構成における設計の自由度を向上させます.

しかし, 高磁場での運転では, 磁石性能と熱マネジメントに対して厳しい要件が課されます. 特に, HTS磁石システム内の交流損失を正確に定量化することは, 重要な設計課題です. プラズマ生成時には, 中心ソレノイド (CS) コイルおよびポロイダル磁場 (PF) コイルの励磁と消磁によって, 磁石システム全体に急速に変化する電磁場が発生します. これらの電流変化の過程により, CSコイルとPFコイル自体に交流損失が生じます. 同時に, これらのコイルによって生成される時間依存の磁場は, トロイダル磁場 (TF) ケーブル内に遮蔽電流を誘起します. TFコイルは直流 (DC) で動作しますが, 過渡的な背景磁場にさらされることで, 追加の交流損失が発生します. 熱的余裕を維持し, 信頼性の高い運転を確保するためには, これらの損失を把握して制御する必要があります.

この課題に対応するため, STEP Fusion は Demcon Multiphysics と協力し, すべてのCS, PF, TFコイルのモデルを開発するとともに, 代表的な動作シナリオにおいて発生する電磁損失を評価しました.

STEPの磁石システム

STEPの磁石システム (図1および図2) は, 16基のTF磁石で構成され, 各磁石には40ターンの巻線が含まれるように設計されています. 各ターンは, 230本のHTSテープを含む垂直積層テープ (VST) ケーブルで構成されています. これらのコイルは連携して, プラズマの生成と閉じ込めを行います. CSはプラズマ電流を誘導し, TFコイルとPFコイルは協調してプラズマの位置と形状を制御します.

図 1. STEPトカマク構想の断面図.

“高磁場を利用することで, 核融合出力密度を高め, 球状トカマク発電所の効率を向上させることができます. これにより, コストの削減と, より持続可能な核融合エネルギーシステムの実現を支援できます. これはSTEPプログラムの戦略的目標であり, HTS磁石を採用した理由でもあります” とSTEPプログラムに携わる主席エンジニアリングアナリストの Jiabin Yang 氏は述べています. “特に重要なのは, 磁場閉じ込め方式における核融合出力密度が, 磁場強度に対して高次のスケーリング則に従い, 磁場が強くなるほど大幅に増加することです. また, このような高磁場で動作可能な HTS テープが近年開発されたことが, 先進的な球状トカマク構想を実現するための重要な要因となっています.”

図 2. 16基のTFコイル, PFコイル (S1, S2, P3, P4, P5, P6, P9), およびCSを示すSTEP磁石の切断図. 中心柱はCCと表記されています.

磁石における交流損失

交流損失は, 時間的に変化する電磁場によって電流や磁化が誘起されることで発生します. これにより磁石内部に局所的な発熱が生じ, 熱的余裕が減少し, クエンチのリスクが高まるため, 大きな課題となります. 交流損失は, ヒステリシス損失, 結合損失, 渦電流損失の3つに分類されます. ヒステリシス損失は, 変動する磁場や輸送電流など, 時間的に変化する電磁条件下にある超電導体で発生します. 結合損失は, 電気的に接続された超電導要素と常伝導要素の間に誘起される電流によって生じます. 渦電流損失は, 常伝導部品内に誘起される閉ループ電流によって発生します. これらの損失はいずれも, 最終的にエネルギーを熱として散逸させます. 交流損失は, プラズマ生成時に発生します. この段階では, CSを0.37秒以内に急速放電することで, プラズマ電流を誘起するための駆動力を与えます. CSコイルおよびPFコイルの電流変化によって, 磁石システム全体に時間的に変化する磁場が発生し, CSコイルとPFコイルの内部だけでなく, 直流で動作するTFコイルにも交流損失が生じます. TFコイル内の損失は, 主にHTSケーブル内に発生する遮蔽電流によるものです. 中心柱では, TFコイルの内側脚部がCSを貫通しており, 磁束密度が最大値 (約20 T) に達するため, 特に大きな影響を受けます. Yang 氏, Demcon 社のマルチフィジックスエンジニアである Rien Wesselink 氏, および両者のチームは, 想定した電流プロファイル (図 3) を使用し, HTSケーブルで構成されたTFコイル脚部の一つにおけるヒステリシス損失と渦電流損失の分布を評価しました.

図 3. 想定した電流プロファイルは, STEPの現在の運転設計と整合していますが, 設計反復プロセスの中で大幅に変更される可能性があります.

シミュレーション手法

交流損失をモデル化する際, STEP と Demcon 社は, 磁石システムの各部分に合わせたマルチレベルのシミュレーション戦略を採用しました.

CSコイルおよびPFコイルのモデリング

CSにおける損失は, 2D軸対称有限要素モデルを用いて算出します (図 4). TFコイルによる磁場は厳密には軸対称ではありませんが, TF磁場の保守的な断面を選び, それを背景磁場として与えることで, 妥当な推定が可能です. 次に, CSおよびPFによる磁場を背景磁場として, 2D平面の無限長モデルに与えます. このモデルを使用して, TFコイルの内側脚部に発生する交流損失をシミュレーションします.

図 4. CSの交流損失をシミュレーションするために2D軸対称モデルを使用し, 2D軸対称モデルではデフォルトで無視される面内電流に起因する付加損失についても評価しました.

TFコイルのモデリング

次に Demcon 社は, 2D平面モデルを使用して, ヒステリシス損失と渦電流損失を含むTF導体内の交流損失をモデル化しました. このモデリングでは, ジオメトリ全体に生じるさまざまな誘導電流を正確に定量化できる定式化手法が必要でした. そのため, 超電導材料の磁気特性をモデル化するために H–H0–Φ 定式化を使用しました. これは, 非導電領域に有限の導電率を設定する必要を回避できる手法です. このアプローチでは, 計算領域を導電領域と非導電領域に分割することでシミュレーションを最適化し, TF磁石の中心柱脚部に沿ったエネルギー損失を算出します.

“私たちは, COMSOL Multiphysics® に実装した H–H0–Φ 定式化を使用しました” と Wesselink 氏は述べています. “磁場定式化インターフェース磁場 (電流なし) インターフェース という2つのインターフェースを連成しました. このアプローチの利点は, H 定式化のみを使用する場合と比べて, 導電率がゼロの領域を扱えることです.”

図 5. 中心柱内部の磁場分布とその変化に基づいて, TFコイル脚部に沿って計算点を選定し, 積分によってTFコイルの総損失を推定しました.

中心柱内のTFコイル脚部における損失を調べるために3Dシミュレーションを使用することも可能ですが, Yang 氏, Wesselink 氏, および両者のチームは, 3Dモデルのセットアップ, メッシュ生成, 計算実行には非常に長い時間がかかることを確認しました. そこで代わりに, 計算効率の高い2D断面アプローチを採用しました. TFコイル内側脚部の長さ方向に沿って複数の断面を評価し, その結果を積分することで総損失を求めました. これにより, 完全な3Dモデルを使用することなく, 長手方向の変化を捉えることができます.

“磁場と電流は, トカマクの中心軸に沿う z 方向には緩やかに変化すると仮定しました. そのため, 異なる z 位置で複数の 2D (xy) 断面を使用できます” と Wesselink 氏は述べています. “次に, 簡略化した2D軸対称計算から抽出したCSコイルおよびPFコイルの背景磁場を加えました.” 前述の磁場の時間微分を図6に示します.

図 6. t = 0.36 s (a) および t = 0.38 s (b) における, TFコイル脚部に沿った半径方向磁場の分布.

TFにおける結合損失の推定

STEPのTFケーブルでは, ReBCO テープが積層されており, この部分では無視できない結合損失が生じる可能性があります. そこで両チームは, これらの損失を算出するために3D抵抗結合モデルを使用しました. 図7は, CSによるさまざまな磁場成分と, TFコイル導体内に誘起される結合電流を示しています. これらの電流を解析的に推定した結果, 交流損失全体に対する寄与は無視できるほど小さいと結論づけられました.

図 7. CSのB場成分と, それによってTFコイル導体に誘起される対応する結合電流.

Yang 氏と Wesselink 氏のチームは, 上述の解析的推定を3D計算によって検証しました. この計算では, テープ積層体を, テープに平行な方向には完全導体, テープに垂直な方向には常伝導体として近似しました. その結果, 推定はおおむね正しいことが確認されましたが, 銅製支持体に生じる渦電流の影響は無視できないことが明らかになりました.

図 8. 結合損失の算出に使用した, TFコイル内側脚部セグメントの3Dモデル概略図.

TFにおける交流損失の熱的影響の検討

これまでのモデリングとシミュレーションから, ReBCO テープのヒステリシス損失がSTEPにおける交流損失の主要因であることが示されました. これらの損失は, 中心柱付近のCSマグネット端部および S1 PF マグネット周辺に局在し, 磁場の変化速度に応じて増加します. 予測どおり, これらの損失は温度上昇を引き起こします.

“これらの核融合システムを冷却するには, 莫大な電力が必要です” と Wesselink 氏は述べています. “こうした損失があると, 極低温冷却装置にさらに多くの入力電力が必要になります.”

これまでに STEP と Demcon 社は, TF内部で予想される温度上昇について予備的な推定を行っています. 代表的な位置で計算されたヒステリシス損失, 渦電流損失, 結合損失に基づく温度分布を図9に示します.

図 9. 異なる高さにおけるTFコイル内側脚部の最高温度を示すグラフ (a) と, z = 6.15 m におけるコイル断面の最高温度分布をソフトウェア上で表示した図 (b).

チームは, TFにおける交流損失に伴う温度上昇が十分に低く, ツイストや転位などの追加の低減策は必要ないことを確認しました. そのため, よりシンプルなTFケーブル設計を採用でき, 温度上昇を許容範囲内に抑えながら, HTSケーブルの製造性と効率を向上させることができました.

STEPの今後

STEPプログラムでは, 設計者やエンジニアが核融合発電に伴う数多くの課題に取り組む中, 開発が着実に進められています. この取り組みを支えるため, UK Fusion Energy Ltd. は Demcon Multiphysics との協力を継続し, 複雑なシステムや現象への理解を深めながら, それに応じてトカマク設計を調整しています.

現在, 両チームはSTEPのTFコイルを対象とした3Dクエンチシミュレーションに取り組んでいます. これらのシミュレーションは, 考えられるクエンチ保護戦略を評価するためのものです. 計算を扱いやすい規模に保つため, 各チームはすべてのケーブルを線として近似する新しい手法を開発し, COMSOL® にも実装しています. これまで, シミュレーションはこの取り組みにおいて不可欠な役割を果たしてきました. Yang 氏と Wesselink 氏によれば, 今後もその重要性は変わらないと見込まれています.

参考文献

  1. J. Yang et al., "AC losses in the STEP TF magnet during plasma initiation," Superconductor Science and Technology, vol. 38, issue 5, 2025.

謝辞

本研究は, UK Fusion Energy Ltd. が主導する大規模な技術・インフラプログラムである STEP Fusion の資金提供を受けて実施されました. STEP Fusion は, 英国の核融合発電実証プラントの実現と, 核融合の商業化に向けた道筋の確立を目指しています.