Voxelgrids, バーチャルモデリングで利用しやすい MRI 技術の実現を目指す

Voxelgrids Innovations 社は, インド初の国内で製造された MRI スキャナーを開発しました. さらに, この装置は患者にとってより手頃な価格になるように特別に設計されました. この設計を開発するために, 同社はマルチフィジックスシミュレーションを使用しました.


Dhananjay Mishra 著
2026年6月

先進的な医療画像診断をより利用しやすくする競争において, Voxelgrids Innovations 社は大きな課題に直面していました. それは, 従来の MRI 用磁石の冷却プロセスに数週間もかかる問題です. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアとそのアドオンである伝熱モジュールを使用することで, チームは数か月に及ぶ試行錯誤を数日間の仮想実験に凝縮し, 製品開発期間を 40% 短縮すると同時に, MRI 装置において高価なヘリウムを不要にしました. 最終的に, チームの取り組みによりインド初の国産商用 1.5 テスラ (T) MRI スキャナーの開発が実現しました.

システムの課題 & Voxelgrids のソリューション

MRI 検査は, 何十年にもわたり, 他のどの技術とも異なる方法で医師に人体の内部を可視化する手段を提供し, 数え切れないほどの命を救ってきました. しかし, 検査費用が高いという理由から, 依然として多くの人にとって MRI 検査は手の届かないものとなっています. その費用の主な要因は, この技術を可能にする巨大な超伝導磁石の維持管理です. これらの磁石が機能するためには, 数千リットルの液体ヘリウムに浸す必要があり, それによって磁石を極低温まで冷却します. このヘリウムは高価であり, 入手が困難なこともよくあります. さらに, 冷却プロセスには時間がかかり, 装置を再使用できるようになるまで最大3週間かかることもあります.

2017年に Arjun Arunachalam 博士によって設立された Voxelgrids 社は, 低コストの MRI 検査を誰もが利用できるようにするという野心的な目標を掲げて始まりました. チームは, 液体ヘリウムではなく伝導冷却システムを採用した, 高性能かつコンパクトな 1.5 T スキャナーの開発に着手しました. この革新的な冷却システムの中核にあるのがコールドヘッドです. これは, 磁石から直接熱を抽出して 4.2 K の超伝導状態に保つ, 機械的に結合された極低温冷凍機です. ヘリウムベースの MRI 装置にもコールドヘッドは搭載されていますが, 同社のコールドヘッドは伝導冷却用に特別に設計されており, 熱を伝導によって除去することで, 液体ヘリウムを必要としません.

図 1. パルス管冷凍機 (PT) とギフォード・マクマホン冷凍機 (GM). 第1段階および第2段階の冷却が発生する位置を示しています.

しかし, チームのアイデアにはいくつかの課題が伴いました. 第一に, すべてのコールドヘッドが同じように機能するわけではありません. その性能は, 複雑で相互依存する2段階冷却曲線によって決まり, 各段階での冷却能力は温度に対して非線形に変化します. さらに, 金属表面間の接触抵抗, 界面での圧力, コンポーネント間の熱伝達が, システムの挙動を大きく変える可能性があります. これらの要因を測定して考慮に入れることは非常に困難です. さらに, 新しい設計アイデアが出るたびに, チームはそのアイデアが機能するかどうかを確認するために2週間の冷却プロセスに直面しました.

“コールドヘッドを選び, ボルトで固定して, 冷却を開始します” と Voxelgrids 社のシニアシミュレーションエンジニアである Ashok K.B 博士は言います. “そこからが大変でした. 待つことです. ほぼ1か月の間, 私たちは見守りながら期待し続けましたが, 最終的には設計に弱点や熱流の問題があることが分かるだけでした. 振り出しに戻りました.”

迅速なイノベーションを目指すスタートアップにとって, このスケジュールは運用面でも財務面でも実現不可能でした. チームには, 答えを得るために何週間も待つことなく, アイデアをテストするための正確で信頼性の高い方法が必要でした. より確信を持ってコールドヘッド設計を選択し, 時間のかかるプロトタイピングを削減するために, チームはマルチフィジックスシミュレーションを使用しました.

冷却プロセスのシミュレーション

MRI システムでは, 動作に必要な極低温で超伝導磁石を維持するために, 2段階冷却機構が採用されています. 第1段階では, コールドヘッドが熱バリアとして機能し, 約 40~50 K の中間温度範囲で動作して周囲の放射シールドを冷却します. このプロセスにより, 外部熱負荷が磁石アセンブリに到達する前に効果的に遮断され, 第2段階を開始するための環境が作られます. 第2段階では, 磁石コイルの超伝導状態を維持するために必要な, 約 4 K の最終的な到達温度を達成します.

Voxelgrids 社のチームメンバーは, 伝導冷却磁石システムの詳細な仮想モデルを構築しました. 最初のタスクはコールドヘッドを正確にモデリングすることであり, これは冷却中の各温度点で除去できる熱量を動的に計算するのに役立ちました. 図2は, コールドヘッドの仮想モデルが冷却プロセスの第1段階の実験結果とよく一致していることを示しています.

図 2. 冷却の第1段階におけるシミュレーション結果と実験的な冷却結果の比較.

シミュレーション駆動型のアプローチにより, チームは幅広い設計の可能性を自由に探索できるようになりました. 複数のコールドヘッドオプションが利用可能で, それぞれが独自の2段階性能特性を持っていたため, チームは異なる順列と組み合わせを仮想的にテストできました. さまざまなシナリオをシミュレーションすることで, エンジニアは冷却挙動と温度安定性を比較し, 最終的に要件を最もよく満たす設計を絞り込みました. シミュレーションにより, 重要な故障モードを調査することも可能になりました. コールドヘッドが適切に動作せず, 本来は大きく異なる第1段階と第2段階の温度が誤って重なった場合に何が起こるかをシミュレーションしました. これらのシミュレーション結果により, 最終設計が実際の動作条件下で適切な熱的分離を維持することが確認され, チームは物理的なプロトタイピングに移る前に確信を得ることができました.

さらに, エンジニアは当初, 基本的なコールドヘッド設計から開始しましたが, その後, モデルの精度を向上させるためにより多くの物理現象を追加しました. 大きな断熱バリアを生じさせる可能性のある機械的接合部での接触熱抵抗は, 表面仕上げと締付圧力に基づいて定義されました. 真空チャンバー内の表面間の放射熱交換も追加されました. このマルチフィジックスアプローチにより, チームは現実世界に非常に近いモデルを作成できるようになりました.

温度分布の可視化

チームは, 冷却中の磁石の熱的状況を可視化できることがこのモデルの最も印象的な成果の1つだと分かりました. 図3に示すように, シミュレーションにより磁石アセンブリの詳細な温度コンターと勾配プロットが生成されました.

図 3. 冷却中の磁石アセンブリ内の温度分布.

これらの結果は, コールドヘッドから複雑な磁石構造を通じて熱がどのように伝播するかを観察するために不可欠でした. 熱経路が不十分なために熱が閉じ込められている領域や, 過度の熱質量がプロセスを遅らせている領域が特定されました. これらの結果により, チームは熱を過剰に伝導している領域を正確に特定でき, 機械設計の反復に重要な知見が得られました.

シミュレーション結果の検証

あらゆる仮想モデルにおける最終的なテストは, 現実世界との比較です. 仮想空間で設計を最適化した後, チームはプロトタイプを構築し, 冷却実験を開始しました. チームは主要な位置での温度低下を監視し, 実験結果をシミュレーションの予測曲線と比較しました.

結果はほぼ完全に一致し, シミュレーションでは動作温度までの冷却時間を約20日と予測したのに対し, 物理実験では約21日を要しました (図 4). わずかな差異は, 簡略化のため初期モデルから省略されていた電気コンポーネントに起因すると考えられました. 実験結果と仮想モデルのこの高い相関により, マルチフィジックスシミュレーションが性能を正確に予測できることが確認されました.

図 4. シミュレーションによる冷却曲線が実験値とよく一致したことで, マルチフィジックスモデルの精度が検証されました.

数か月から数時間へ: 成果への道のりを加速

シミュレーションの使用が開発プロセスに与えた影響は測定可能なものでした. 設計, 構築, テストに数か月を要するサイクルが加速され, 複数の設計を並行して探索できるようになりました. 単一の仮想冷却解析は8時間未満で完了でき, これによりチームは, もともと1回の物理試験を実施するのに要していた時間で, 複数のコールドヘッド構成, インターフェース材料, 機械レイアウトを評価できるようになりました. また, このソフトウェアにより, チームは故障モードやエッジケースのシナリオを安全かつ低コストで解析できるとともに, システムのロバスト性を理解するために, 性能が低下したコールドヘッドや不適切な組み立ての影響をシミュレーションすることも可能になりました.

チームの迅速なイノベーションは, 医療技術業界に大きな影響を与えました. Voxelgrids 社は, インド初の国産商用 1.5 T MRI スキャナー (図 5) を開発し, インド・ナグプールにある Chandrapur Cancer Hospital に導入しました. この装置はコンパクトで軽量であり, 最も困難な設置条件下でも導入および運用できるように設計されている一方で, 臨床診断用の優れた画像を生成します. この装置により, チームは MRI 検査をより利用しやすくするという大きな目標を達成しました.

図 5. インド・ナグプールにある Chandrapur Cancer Hospital に導入された Voxelgrids 製の革新的な MRI システム.