PEM電解槽における二相流のモデル化

2021年 5月 18日

化石燃料への依存を減らすために, 世界は風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーに移行する必要があります. そして, そのエネルギーを最も必要とされる場所に届けなければなりません. エネルギー貯蔵と輸送の有望な方法の一つは, 宇宙で最も豊富に存在する元素である「水素」を使用することです. 固体高分子電解質膜 (PEM) 電解槽は, 電気を使って水から水素ガスを抽出します. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアを使用すると, PEM 電解槽の動作をシミュレートすることができます. このデバイスの効率を向上させることで, 貯蔵された水素を電気バッテリや液体化石燃料の実行可能な代替物として使用することが可能になるかもしれません.

風力と太陽光発電の課題

再生可能エネルギーによる発電は, 二酸化炭素排出量の少ない経済への移行に貢献していますが, 風力や太陽光といったエネルギー源には, それなりの課題があります. 風力発電や太陽光発電の発電量と消費者の需要のバランスをとることは困難なことです. また, 風力タービンやソーラーパネルの最適な設置場所は, 電力網の容量が限られた遠隔地であることが多いです. このような条件により, エネルギー貯蔵と輸送の改善は, 再生可能エネルギー生産の拡大に不可欠な要素となっています.

蓄電池は身近なエネルギー貯蔵手段として知られていますが, 電池に使用される金属の採掘には環境コストがかかり, また, 古くなった電池の廃棄も問題になることがあります. バッテリ設計の改善に重点が置かれた研究が多く行われていますが, 将来のエネルギー貯蔵需要の膨大な規模を考えると, 他のアプローチも必要であると考えられます.

水素を利用したエネルギー貯蔵の可能性

水素電気分解によるエネルギー貯蔵システムは, 風力発電や太陽光発電の分散型発電の課題に対処するのに役立つでしょう. 発電設備は現場の電解槽に電力を供給し, 電解槽はそれを使用して水から水素を分離します. (このプロセスについては, 以下で詳しくご説明します.) そして, 水素が回収され, 貯蔵され, タンクやパイプラインで必要な場所に輸送されます. 電解水素は, “”グリーンスチール“の製造など, 産業用途にも必要となっています.

太陽光, 風力, 水力, 輸送, エネルギー, 産業用途など, 水素エネルギーに依存するさまざまな分野を示すグラフ.

この方法は試験段階では有望視されていますが, 電力業界ではまだ水素電解プロセスにコミットする大規模な動きは見られません. その理由の一つは, 電解槽の製造コストという課題なのです.

PEM電解槽による水からの水素の抽出

PEM 電解セルは, 高分子膜で仕切られた2つの電極室からなります.  液体の水はアノード側で循環します. 電解作用により, 水分子の一部は酸素ガスと水素ガスに分解され, メンブレインを通過してカソード側に蓄積されます.

電解槽の仕組みを示す模式図. アノード, カソード, メンブレインの部分が表示されています.
電解槽の仕組み. 画像提供: Davidlfritz — Photoshop. Wikimedia Commonsを介してCC BY-SA 3.0の下でライセンスされています.

この電解法は, 2015年の“水素エネルギー大要”レポートでも紹介されているように, 重要なメリットをもたらします. 他のタイプの電解槽と比較して, PEM 電解槽には次の特徴があります:

  • コンパクト
  • 柔軟
  • 扱いやすい
  • 電気負荷の変動に強い
  • 高圧力下での操作が可能

しかし, 電解槽は初期コストが高いため, 普及には至っていません. それらの触媒作用には, デバイスのアノード側にイリジウム, カソード側に白金が必要です. バッテリーに使われる金属に比べれば微々たるものですが, イリジウムと白金は地球上の金属の中でも極めて希少です. したがって, これらの高コストにより, PEM電解はまだ経済的に実行可能ではないのです. 特にイリジウムは高価な上に, 動作中に劣化してしまいます. そのため, アノード側のイリジウム層の耐久性と変換効率を高めることは, PEM 電解槽の研究において重要な課題となっています.

二相流のシミュレーションによる変換効率の最大化

“燃料電池&電解槽モジュール”は, PEM電解槽をモデル化する機能を備えています. このタイプのモデルでは, デバイスのアノード側での二相流体力学をシミュレーションすることができ, イリジウムを利用した電解作用を研究するのに役立てることができます. ここでは, このモデルとその興味深い結果のいくつかについて解説しますが, ステップバイステップのチュートリアルモデルに飛びたい方は, こちら (固体高分子電解質メンブレイン電解槽)をご参照ください.

入口と出口が表示されている PEM 電解槽モデルのジオメトリ.
PEM 電解槽のモデルジオメトリ.

シミュレーションの結果を見ると, デバイスの中央付近の電極流路の端で, ガス体積分率が100%に近づいていることがわかりました. 同時に, 右端の流路では, ガスの変換はほとんど発生していません. デバイスから排出される液体の水は酸化され, 電解槽のカソード側で還元に利用できるプロトンが放出されているはずです. 逆に, 大きな”レッドゾーン”にあるイリジウムは, それらの流路で酸化させるための液体の水がほとんど残っていないため, ほとんど効果は見られません. このことから, 電解槽のジオメトリを再設計することで, 触媒材料をより効率的に利用できる可能性があることがわかります.

PEM電解槽モデルのシミュレーション結果. 青色は水, 赤色は酸素ガスの分布を示しています.
PEM電解槽の動作中の液体の水 (青) と発生する酸素ガス (赤) の分布

シミュレーションは, PEM電解槽の設計に潜在的な改善点を見出すことで, 設計者が電解槽をより効率化し, 水素ベースのエネルギー供給をより現実的にするために役立ちます.

次のステップ

下のボタンをクリックして, 固体高分子電解質膜電解槽における二相流のシミュレーションをお試しください:

コメント (0)

コメントを残す
ログイン | 登録
Loading...
COMSOL ブログを探索