シミュレーションアプリで自動車製品開発を推進
Mahindra & Mahindra Limited (M&M) 製品開発部門では, シミュレーションアプリによって製造, 設計, CAE(コンピュータ支援型エンジニアリング)チームのコラボレーションを促進しながら, 製品開発のライフサイクルを加速させています. 2018 年には, M&M が開発ワークフローにアプリを導入することで有望な効果を確認したことを記事にしましたが, 今回は近年の結果を見ていきたいと思います.
By Aditi Karandikar
2021年9月
製品開発は一刻を争うプロセスであり, インドの自動車業界における多国籍OEM企業であるMahindra & Mahindra Limited (M&M) のような自動車関連企業は, 製品開発のライフサイクルを短縮し, 競合他社よりも優位に立つための革新的なアプローチを常に模索しています. シミュレーションは, 試作品への依存度を低減し, 製品の市場投入までの時間を短縮することで, この取り組みにおいて重要な役割を果たしています.
しかし, シミュレーションを導入しても, 製品設計には多くの時間がかかります. 設計者は, 新しいコンセプトを素早く評価することを求められますが, 解析の複雑さが要求されるため, それが不可能な場合もあります. 設計チームは, CAEチームの評価を受けた後, CAEの結果に基づいて設計を修正し, 再びCAEエキスパートの検証を待ちます. これらの反復作業は, 最終的な設計が得られるまで続きます.
その結果, 設計の最終段階までに必要な反復回数に応じて, 車両部品によっては設計リードタイムが数ヶ月に及ぶこともあります. さらに, 設計の反復間のCAE解析に時間がかかるため, CAEエキスパートは, 組織内の複数の部門にまたがる中間的な設計評価をこなす必要があります.
COMSOL Multiphysics® のようなシミュレーションソフトウェアには, アプリケーションビルダ ーが搭載されているため, 専門家でなくてもシミュレーションの力を利用することができ, M&M のような企業がこのボトルネックを解消するのに役立っています. M&M のメソッド開発チームは, 設計, 試験, 騒音, 振動, ハーシュネスハーシュネス(NVH)解析など, さまざまな分野のチームで使用されている 20 近いシミュレーションアプリケーションアプリを開発しました. これらのアプリケーションは, COMSOL Server™ と COMSOL Compiler™ の両方を使用して組織内に展開されています.
これらのアプリを利用することで, 設計チームはエンジニアリング解析ツールにアクセスできるようになり, コンセプト段階から新しい設計の検証に積極的に参加できるようになるため, CAEの専門家とより効率的に協力することができます. その結果, ロバスト設計に到達するまでの反復作業が最小限に抑えられ, CAEチームは他のプロジェクトに時間を割くことができるのです.
シミュレーションアプリのメリット
M&M チームは, アプリを使用することで, コンセプトの評価や最終決定がより容易になることを発見しました. アプリを使えば, デザイナーはさまざまな設計を自分で試し, 設定された基準に基づいて客観的にランク付けすることができます. アプリのパラメトリックな性質は, 様々な設計オプションを迅速に評価するための利便性と柔軟性を提供し, 詳細な3D解析を行うよりも所要時間を短縮することができます.
図2. パラメトリックアプリの一例: エンジンマウント解析アプリ. 画像提供: Mahindra & Mahindra Limited.
アプリは, CADの可用性に依存しないため, 設計がコンセプト段階にあるときに特に有効です. 以前は, CADチームによる設計レイアウトの提供によってプロセスが制約され, 設計のリードタイムがさらに長くなっていました. ここでアプリを導入することで, 設計評価をより早く開始できるようになりました. 詳細なCADが入手できない場合, アプリは出発点として使用できるのです. いくつかのアイデアが評価され, CADは最終候補の設計に対してのみ準備されます.
例えば, シャシーコンセプト設計アプリでは, NVH解析を行いながら, 振動の基本周波数や曲げ, ねじり剛性などの主要な指標をより速く評価することができます. アプリのユーザーは, 境界条件やメッシュを手動で追加する必要がなく, アプリが自動的に行ってくれます. これにより, 同じ設計サイクルでより多くのコンセプト設計を評価できるようになったのです.
もう一つの重要な点は, コンセプト設計の可視化です. 以前のプロセスでは, デザイナーは時間のかかるツールを使用したり, 他のチームに依存して自分の変更が結果的に設計に与える影響を観察したりしていたため, 直感的な修正を提案することが難しくなっていました. アプリを使用することで, 設計者はさまざまな設計を可視化し, 主要なパラメータを変更した場合の結果の設計への影響を確認することができます. これにより, M&M のチームは, 設計コンセプトの実現可能性について, より多くの情報に基づいた判断を下すことができます. これは, スタビライザーバーアプリで示されています. このアプリでは, 様々な設計コンセプトを迅速に評価するために, 簡略化されたモーダル解析を実行できます.
図4. モーダル解析用スタビライザーバーアプリ. 画像提供: Mahindra & Mahindra Limited.
さらに, シミュレーションアプリのユーザーフレンドリーなインターフェースにより, M&M 全体で非常に簡単かつ便利に導入することができました. COMSOL Server™ を利用して, 各チームのマシンのウェブブラウザーからアプリを起動できるため, 設計プロセスに簡単にアクセスできます. さらに, 組み込みのレポート機能を使って後処理を行い, 結果を共有することで, チーム間のコラボレーションがより容易になります.
また, アプリは COMSOL Compiler™ を用いてスタンドアロンの実行可能ファイルに変換することができ, アプリのユーザーは COMSOL Multiphysics® や COMSOL Server™ のライセンスがなくてもシミュレーションを実行することができるため, アプリへのアクセスが容易になります.
製品開発の効率化
M&M チームが設計プロセスにアプリを導入して得られた最も顕著なメリットは, アプリを使用して作成された初期の設計がより望ましい結果に近いため, 設計の最終決定までの反復回数が大幅に減少したことです. また, 設計評価の前倒しにより, 最低限の要件を満たした成熟した設計がCAEチームに引き継がれ, 最終的な評価が行われるようになりました. 軽量化や目標重量に合わせたコンポーネント設計などの重要なプロジェクトも, コンセプト段階から設計チームが推進することができます.
プロセスの変更によりコンセプト設計の数が増えたことで, 設計の最終決定までの時間が短縮され, 結果的に時間とコストの両方を削減することができました. 設計チームは, 提案された設計を評価するためのツールを手に入れたことで, 今後のプロジェクトや現行のプロジェクトで革新的な設計を生み出すことが可能になりました. これにより, M&M の様々なチームからより多くのイノベーションが生まれています.
その先にあるもの
M&M では, コンパイルされたアプリを使用することで, 組織全体でシミュレーションを真に民主化することができました. 乗用車のさまざまなコンポーネントの設計にシミュレーションアプリを導入して成功を収めた M&M チームは, 今後もこの勢いを維持していく予定です. M&M チームは, コンセプト設計を最適に評価するために, 既存のアプリにさらに多くのロードケースと評価基準を組み込むことを計画しています. より新しく, より厳しい設計目標をアプリに反映させることで, 結果として得られる設計が最終的に期待される設計に一歩近づきます. また, 関連する最適化パラメータを含めることで, これらのアプリの効果をさらに高めることができます.
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