核融合の未来へのタイムラインを短縮

General Fusion 社は Veryst Engineering 社と協力し, 概念実証型核融合装置で発生する磁化標的核融合をシミュレーションし, より深く理解しました.

Joseph Carew 著
2025年7月

磁化標的核融合 (MTF) 発電所は, 比較的安価な技術で, かつ炭素排出量を排出することなく, 大量のエネルギーを生産できる可能性を秘めています. General Fusion 社の MTF 装置では, 核融合装置内部に形成された液体金属容器に水素プラズマ (重水素–三重水素, D-T など) を注入します. そこから, ピストンの列がプラズマの周りの液体金属容器を圧縮・変形させ, プラズマの密度と温度を核融合条件まで高めることで, 核融合が起こります. これは, 商用プラントで1秒に1回繰り返されるパルス方式です. 容器の液体金属壁は中性子のエネルギーを補足し, 熱に変換します. そして, それを熱交換器に運び, 蒸気を発生させ, 最終的に電力を生成します.

General Fusion 社のエンジニアたちは, MTF を用いて核融合発電を商用電力網に導入しようとしています. この取り組みは, General Fusion 社の大型核融合実証機である Lawson Machine 26 (LM26) の建設という大きな節目を迎えました. General Fusion 社は, マルチフィジックスシミュレーションを活用することで, LM26 の設計と最適化に成功し, 将来の核融合発電のビジョンに向けて大きな一歩を踏み出しました.

LM26 はリチウムライナーの電磁圧縮を利用して核融合条件に達します

2024年後半, General Fusion 社が将来的に開発する大規模商用 MTF 装置のリスク軽減を目的として, LM26 (図 1) が建設されました. LM26 におけるプロジェクトの目標は, 1 keV, 次に 10 keV, そして最終的には科学的損益分岐点相当のエネルギーを達成することです.

図 1. General Fusion のチームが LM26 を組み立てている様子.

LM26は, 球状トカマクプラズマをチャンバーに注入し, 固体リチウムライナーを用いて圧縮することで, 核融合に必要なプラズマ温度に達するように設計されています. 圧縮中, 砂時計構造を流れる軸方向電流によってトロダイル磁場が生成され, プラズマが閉じ込められ, 安定状態を保ちます. このプロセスにより, プラズマイオンの核融合と中性子の形でのエネルギー放出につながるプラズマ温度と密度が生成されます.

図 2. General Fusion 社の商用 MTF 装置設計のレンダリング.

General Fusion 社の MTF 発電所コンセプト (図 2) では, LM26 のような磁気コイルではなく, ピストンが圧縮プロセスを開始します. 他の核融合方式が超伝導コイル, レーザー, その他の高価な機器に依存しているのに対しピストンは, General Fusion 社のアプローチ独自のものです.

"MTF の場合, 初期のプラズマ体積が大きいほど, 高温状態を維持できる時間が長くなり, プラズマを核融合条件まで圧縮する時間を長く取ることができます. と General Fusion の エンジニア分析マネージャーである Jean-Sebastien Dick 氏は述べています. "General Fusion では, このプロセスを反復的に改良し, 商業的に実現可能であるだけでなく, 市場に出回っている他の種類のエネルギー源に対しても非常に競争力のある発電所の運転点を開発してきました."

固体リチウムライナーの磁気機械圧縮のモデリング

LM26 は, 固体リチウムライナーを圧縮することで, 1 keV, 10 keV, そして科学的損益分岐点等価という主要な温度閾値をターゲットとしています. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアを使用することで, チームは内部効果をモデル化, 測定し, LM26 設計の性能を予測することができました (図 3).

"General Fusion に入社した際, 私たちが直面している課題の種類を見て, COMSOL Multiphysics は私たちのソフトウェアリストに追加するのに最適なツールだと思いました" と Dick 氏は述べています. "これが, マルチフィジックス分野の著名な専門家である Veryst Engineering 社との協業のきっかけとなりました. 彼らは COMSOL を非常によく理解しています."

図 3. LM26 の形状.

Veryst Engineering の支援によるリチウム材料モデルのキャリブレーション

General Fusion 社と Veryst Engineering 社とのパートナーシップは, LM26 の開発において不可欠でした. Veryst Engineering 社は, COMSOL 認定コンサルタントであり, 高度な非線形シミュレーションと材料モデリングを専門とするエンジニアリングコンサルティング会社です. Veryst の主任エンジニアである Sean Teller 氏は, Dick 氏と協力して, リチウムライナーの応答を正確にシミュレーションするための材料モデルを開発しました. この情報は, LM26 ライナーの起動を正確に予測するモデリングに不可欠であり, General Fusion 社による LM26 の製造と組み立てを可能にしました.

Teller 氏は次のように述べています. "COMSOL Multiphysics シミュレーションと統合された実験計画および検証を活用することで, General Fusion のチームは LM26 の設計を迅速に反復することができました. この予測モデルは, 実現可能で抱負なクリーンな核融合発電の実現に向けて, 核融合条件を達成するために不可欠です."

これらの引張試験実験の一つに, 固体リチウムの材料応答の測定が含まれていました. Veryst 社と General Fusion 社は, 高速カメラと衝撃ロードセルを用いて, 一対のセラミックヒーターでリチウムを加熱し, サンプルを破断まで引っ張ることで, 応力対ひずみ応答を測定しました (図 4). これらの実験結果は, Johnson–Cook モデルのキャリブレーションに使用されました (図 5).

図 4. この実験装置は, 2つの黒色セラミックヒーター間でリチウム (中央, 黒色で銀色の点がある部分) を引張試験するものです.

"モデル全体は非常に複雑です" と Teller 氏は述べています. "リチウムと圧縮プラズマには移動メッシュを使用し, 非線形固体力学と Johnson–Cook 材料モデルを応用し, モデル化された回路からの電磁力がリチウムの圧縮を駆動します. リチウムライナーは砂時計型デバイスに衝突するため, 正確な予測を行うには非線形接触を捉えることが不可欠です." さらに複雑なのは, これらのモデルコンポーネント間で熱伝達が発生することです.

COMSOL® ソフトウェアでは, 異なる LM26 設計を同時に, 同じ空間で軽量することができました. Veryst 社と General Fusion 社は, 時間依存の完全連成ソルバーと自動リメッシュを用いて, LM26 内部の大きな変形と圧力を捉えました.

"このコンプレッサー設計に関する基本的な知見を得るには, 物理試験と有限要素モデルを緊密に統合する必要がありました" と Teller 氏は述べています.

図 5. このプロットは, 実験データ (四角いデータ点) と材料モデル予測値 (破線) を比較したものです.

LM26 の開発につながったモデルの検証キャンペーンにおいて General Fusion は電磁圧縮法を用いて40個のリチウムライナーを圧縮し, COMSOL モデルの妥当性を検証しました. チームは, 圧縮システムの小型プロトタイプを用いて物理実験を実施しました (図 6).

図 6. プロトタイプ 0, LM26 の圧縮システムの小型版.

ライナーの変形を測定するために, General Fusion 社は構造化光再更生法 (structured light reconstruction) を開発しました. これは, レーザー光のシートを用いてライナー内の複数の点で速度を抽出する手法です. また, 光子ドップラー速度測定法を用いてリチウムライナーの中心点の速度を測定しました. この組み合わせにより, 物理実験で観測された変形を再現し, 検証のためにシミュレーション結果と比較することができました. その後, この速度および温度依存性材料モデル (図 5) をプラズマ圧縮機のその後のシミュレーションに適用し, 試験データと過去の試験で得られたデータとの間に良好な一致を確認しました.

"このコンプレッサーの性能は, 初期のシミュレーションから得られた知見, 特にこの設計の推進に役立ったマルチフィジックスモデルなしには実現できなかったでしょう" と Teller 氏は述べています. "これらの検証は, デバイスをさらに推し進め, ローソン基準とクリーンな電力を達成するための今後のモデリング作業に対する信頼性を高めます."

コンプレッサーのインピーダンスへの取り組み

LM26 の主要コンポーネントの一つは, 電磁コンプレッサーです. この部分は, 磁化されたプラズマを急速に圧縮する役割を担っています. 優れた電磁コンプレッサー設計は, インピーダンスと圧縮時間を一致させる必要があります. インピーダンスと圧縮が同じ時間スケールに従うことで, "効率的な圧縮" が可能になります. これは, 電気エネルギーが運動エネルギーに変換される瞬間です. "効率的な圧縮" とは, 初期に蓄積された電気エネルギーの大部分を運動エネルギーに変換することです.

モデリングとシミュレーションにより, General Fusion 社は電源のインピーダンスを調整し, 設計変更が性能にどのような影響を与えるかを確認し, 圧縮効率を最大化することができました.

インピーダンスを調整するために, Dick 氏はソフトウェアを用いてコンプレッサーのコイルの巻き数を調整し, ライナーとコイル間の初期距離 ("エアギャップ" と呼ばれる) を変更し, ライナーの圧縮軌跡における圧縮方法を変化させました. さらに, プラズマの安定性を確保するためには, 圧縮過程におけるライナーの形状を制御する必要があり, ライナーの厚さとコイル間の軸方向間隔を反復的に調整する必要がありました. Dick 氏は様々な設計調整を行った上でモデルを解析し, 結果を比較することで, 装置が安定したプラズマ圧縮を実現できるかどうかを検証しました.

"このライナーが, これらのコンプレッサーで経験している高いひずみ速度と高い塑性ひずみ下で期待通りに挙動することを確認するため, 複数の材料特性評価キャンペーンを実施しました" と Dick 氏は述べています.

モデルの検証

材料特性の検証のための実験セットアップと同様に, General Fusion 社はライナーによる磁場の移流が解析予測と正しく一致することを確認するために, 社内検証を実施しました.

"これらのコイルそれぞれについて個別にテストを行い, 回路内の抵抗とインダクタンスを調整し, 磁束ループで測定した値と可能な限り一致することを確認しました." と Dick 氏は述べています.

Dick 氏は, 解析時間を短縮するために, 機械の動作の2D軸対象シミュレーション (図 7) を使用しました.

図 7. 機械の2D軸対象モデル. リチウム内の静水圧等高線と, すべての物体におけるポロイダル磁束等高線. 中央の導電コーン (下). 電源に接続されたコイル (上) (灰色の物体).

シミュレーションによるデータポイントの獲得

"COMSOL のフレームワークのおかげで, 複雑性を段階的に構築し, 設計意図への確信を深めることができ, 設計フェーズのやり直しを回避できました." と Dick 氏は述べています. "これらの実験の主要な部分を変更する必要はありませんでした."

General Fusion のチームは, シミュレーションをはるかに短い時間枠で実行できるようになりました. これは, COMSOL Multiphysics®クラスタースイープ ノードを使用しているためです. このノードにより, 複数のノードにまたがる1つの大規模なクラスタージョブを作成できます. 追加されるノードの数が多いほど, 並列計算されるパラメーター値の量に直接関係します. General Fusion 社はこれを利用して, 複数のパラメーターをより迅速に処理しました.

"以前は, これらのシミュレーションの実行には数週間, あるいは数か月もかかっていましたが, 今では24時間以内に実行できます." と Dick 氏は述べています. "この時間枠で, クラスター上で数百ものシミュレーションを実行できます."

チームはシミュレーションから得たデータを活用し, 自信をもって機械の安全な動作空間を開発することができました.

シミュレーションと核融合発電の未来

シミュレーションにより, General Fusion のチームは, LM26 の設計開発において段階的に複雑さを増すことができました. そして, 実世界の実験とマルチフィジックスシミュレーションを組み合わせることが, 概念実証モデルの開発において極めて重要でした.

LM26 (図 8) は2025年2月に "最初のプラズマ" を達成し, 現在は定期的にプラズマを生成しています. General Fusion のチームは, 次のステップであるプラズマを圧縮して核融合と圧縮による加熱を生み出す準備として, 性能の最適化に取り組んでいます.

図 8. 完全に組み立てられた LM26.

"空気力学, 流体力学, 構造力学といった個別に検討する段階は過ぎました. それらすべてを統合して捉えています" と Dick 氏は述べます. "COMSOL がシミュレーションの世界に取り組む姿勢は実に素晴らしいと思います. 物理現象をパズルのピースのように組み合わせ, 複雑さを増していく, そうした体系的で段階的なアプローチが気に入っています. 新しいイノベーションはますます複雑化し, 多様な物理現象を統合的に扱うことが求められるため, シミュレーションの未来はまさにこの方向に進むと考えています."