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シミュレーションアプリがEVトラック用バッテリー設計の開発期間を短縮
Volvo Trucks 社は, レーザー溶接シミュレーションアプリを使用することで, 電気トラックのための長寿命で高性能なバッテリーの迅速な設計を可能としました. このアプリは, エンジニアリングコンサルティング会社 Resolvent を含む, 学術および産業界のパートナーと共同で開発されました.
Brianne Costa
2026年1月
近年では, 指定配送, 翌日配送, さらには当日配送でさえ, 当たり前のサービスとなっています. こうした需要に応えるために, 地域密着型のフルフィルメントセンターや配送センターが数多く整備されていますが, 配送トラックは依然として高速道路を利用して長距離を走行する必要があります. 燃料費や保守費, 二酸化炭素排出量の削減を目指して, 多くの企業が配送車両の電動化を進めています. 電気トラックへの移行は有望なソリューションである一方, これらの車両に搭載されるバッテリーパックは, 長距離の高速道路走行に求められる航続距離を十分に確保できないことがしばしば問題となります.
バッテリー寿命の課題を克服するため, 大学と産業界のパートナーから構成される共同事業組織 (コンソーシアム) は, バッテリー製造プロセスにマルチスケールシミュレーションとカスタムシミュレーションアプリを導入しました. このプロジェクトには, Aurobay, Resolvent, European Commission, Technical University of Denmark (DTU), Vinnova (Swedish Agency for Innovation Systems), Innovation Fund Denmark, Volvo Group Trucks Operations が参画しました.
グリーンエネルギー分野を専門とするデンマークを拠点とするエンジニアリングコンサルティング会社である Resolvent 社が開発したこのシミュレーションアプリにより, Volvo 社の研究開発部門はバッテリー寿命性能を容易に評価できるようになりました.
LaserBATMAN?
バッテリーパック製造の最適化に向けたレーザー溶接のマルチスケールシミュレーションプロジェクト (通称 "LaserBATMAN") は, 2022年5月に開始され, 2025年5月に終了しました (参考文献 1). ここでいう BATMAN は, 有名な覆面スーパーヒーローではなく, バッテリー製造 (Battery Manufacturing) に由来しています. このプロジェクトの目標も, その名にふさわしい偉大な成果を目指すものでした.
LaserBATMAN プロジェクトは, バッテリーパックの2つの主要な性能指標であるロバスト性と寿命の最適化を目的としました (参考文献 1). これら2つの性能指標の両方に影響を与えるバッテリー製造プロセスの要素の1つが, コンポーネント接合プロセスで使用されるレーザー溶接です (たとえば, バスバーを介してパック内のバッテリーセルを接続する際に使用されます). レーザー溶接を適切に行うことでバッテリー寿命の向上が期待できますが, 不適切な溶接を行うとバッテリーの劣化リスクを高める可能性があります. 計算モデリングは, 製造プロセスのさまざまな段階における溶接および接合プロセスの影響を解析し, 予測するために活用できます.
Resolvent 社の元最高商業責任者兼パートナーである Martin Refslund Nielsen 氏は, この種のマルチフィジックスおよびマルチスケールの問題には “COMSOL Multiphysics がまさに適切なツールです” と説明しました.
マルチスケールモデルとシミュレーションアプリの研究開発ワークフロー
Resolvent 社のチームは, COMSOL Multiphysics® ソフトウェアを使用して, レーザー溶接がバッテリーセルの電気化学特性や劣化に及ぼす影響を調査しました. もっとも, プロジェクトは当初そのような取り組みとしてスタートしました.
“目標は次第に大きくなっていきました” と Nielsen 氏は振り返ります. チームは最終的に, セルレベルからパックレベルまでバッテリー全体の性能をモデル化し, さらに “最終的には, [モデル] を設計ツールへと発展させました” と語ります. ここでいう設計ツールとは, シミュレーションアプリのことを指しています.
まず, チームは関連する化学反応速度論の式を入力することで, バッテリーセルの電気化学モデルを構築しました (図 2). 次に, 構築したセルの1D詳細電気化学モデルに入力データを与え, その出力データを使用してディープニューラルネットワーク (DNN) のトレーニングを行いました. この代理モデルにより, チームはセル挙動に関する知見を迅速に得ることができました.
バッテリーモデルの DNN をトレーニングを行った後, チームはカスタムシミュレーションアプリを構築し, バッテリーパック構成におけるバスバータブを効率的に最適化できるようにしました.
バスバー溶接設計のための “ツール内ツール”
Nielsen 氏によると, このシミュレーションアプリには, バッテリーパックの形状寸法 (図 3), セル数, 周囲温度や充放電電流プロファイルといった運転条件を入力できる機能が備わっています. また, 単純な充電電流を設定したり, カスタマイズした充放電サイクルを読み込むことも可能です. ユーザーは, それぞれの入力条件ごとに, バッテリー性能がどのように変化するかを確認できます.
Resolvent 社のアプリのもう一つの重要な機能が, Busbar Weld Design Tool ボタンです. Nielsen 氏はこれを “ツール内ツール (a tool within a tool)” と表現しています. このボタンを使用すると, 一定回数の充放電サイクルを経た後のバスバー溶接部の性能を効率的に評価できます. ボタンをクリックすると, 溶接部の形状, バスバーの厚さ, レーザーの溶け込み深さなど, さまざまなパラメーターを設定できるウィンドウが表示されます (図 4).
“[ツール内ツールボタン] は, ロバスト設計の観点から興味深いものです” と Nielsen 氏は言います. ユーザーは入力パラメータに変更を加え, 溶接がバスバーの十分な深さまで届かなかった場合に, 実際の製品にどのような影響が生じるかを確認できます.
“この機能により設計に関する非常に深い技術的知見を得ることができ, スイートスポットで設計の仕様を定めることができます. このような深い技術的知見は, 製品性能を最適化するうえでも重要です” と Nielsen 氏は述べています. 例えば, シミュレーションの結果から冷却性能を向上できることが分かれば, バッテリーセルを2個減らしても同等の性能を維持できる可能性があります. これにより, 冷却性能と設計構成のトレードオフを容易に定量化できます.
バッテリーパック性能の予測
アプリのユーザーインターフェースには Compute Battery ボタンも用意されており, このボタンを使用すると, 特定の状態における溶接部の温度, バッテリーの充電状態 (State of Charge, SoC), および固体電解質界面 (Solid–Electrolyte Interface, SEI) 層の厚さを確認できます (図 5). これらの結果は, 設計にさらなる最適化の余地があるかどうかをエンジニアリングチームが評価する際に役立ちます. 例えば, ユーザーはアプリ内で冷却気流を適用し, 乱流や空気の滞留が発生するかどうかを確認できます.
Nielsen 氏によると, シミュレーションアプリは, より一貫性のある解析とレポート作成を可能にし, カスタムアプリの直感的な操作性によって知見の共有も容易になります. “これにより, 性能の最適化と設計のロバスト性向上を, これまで以上に効果的に進められるようになりました” と Nielsen 氏は述べています.
LaserBATMAN コンソーシアムが開発したカスタムシミュレーションアプリは, よりロバストなバッテリー設計の実現に貢献します. これにより, 故障を抑えながら, 高速道路での長距離走行に対応できる航続距離を備えたバッテリーの開発が可能となり, 同時にグリーンエネルギーの普及促進にも寄与します. まさに, その名にふさわしい画期的なプロジェクトといえるでしょう.
参考文献
- “LaserBATMAN,” University of Skovde, accessed 08/21/2025, https://www.his.se/en/research/virtual-engineering/virtual-manufacturing-processes/LaserBatman/.
- R. Nielsen, “Keynote: Optimizing Lifetime and Robustness of Electric Truck Batteries with Simulation Apps,” COMSOL Conference 2024 Florence, October 2024.
Volvo は, Volvo Trademark Holding AB の登録商標です.
