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砂に蓄えた太陽エネルギーで建物を暖める

フィンランドのスタートアップ企業である Polar Night Energy 社は, 太陽熱で発生した熱を砂に蓄え, 建物を暖める技術を開発しました. 同チームは熱モデリングを用いて蓄熱および分配システムの設計を最適化し, フィンランドの都市が再生不可能な暖房用燃料の消費を減らすのに貢献しています.


Alan Petrillo 著
2022年2月

自然を客観的に研究しようとすると, 自然の力が私たち個人にどのような影響を及ぼすか, しばしば思い知らされます. 机の前に座って, さまざまな形の熱について考えることはできますが, 足の指が冷たいと気が散ってしまいますよね. 家庭や職場で暖房をつけるとき, 暖かさを求める個人的な欲求と, 石油, ガス, 石炭, バイオマスなどの化石燃料を燃やすことによる地球規模の影響とのバランスをとらなければなりません. 人為的な気候変動が人類に突きつけているのは, 「どうすれば今の自分たちを暖めながら, 将来, 世界がオーバーヒートするのを防げるか」 という課題です.

この難題に挑戦しているのが, 寒い小国フィンランド (図1) のスタートアップ企業 Polar Night Energy 社です. 冬の夜が長く暗いことで知られるこの地域で, Polar Night Energy はタンペレ市に, 昼も夜も, そして冬の間中, 蓄えた太陽エネルギーで建物を暖めることができるシステムを構築しています. 一見矛盾しているように見えますが, それだけではありません. 希少で高価な素材を使った複雑なクリーンテック解が多い中, Polar Night Energy の蓄熱, 分配システムは, 単純なダクト, ポンプ, バルブ, 砂で構成されています. この斬新なシステムは, 地球規模の問題に忍耐強く, 思慮深く, 人間的なスケールで取り組むことができる可能性を示しているのです.

図1. フィンランドの地図. 一部は北極圏の上にあります. Polar Night Energy の蓄熱システムは現在, タンペレ市とカンカンパ市に設置されています.

大きな暖房ニーズを持つ小さな国

大きな問題には大きな求解策が必要であり, 21世紀において気候変動ほど大きな問題はないでしょう. この問題に対処するため, 多くの政府や組織が化石燃料の使用を減らすための新しい技術に投資しています. このような取り組みは, 主に再生可能エネルギーの発電, 配電, 貯蔵に焦点を当てたものです.

「クリーンエネルギーというと, 電気を思い浮かべますよね」 と Polar Night Energy の CEO, Tommi Eronen 氏は語ります. 「しかし, 暖房による排出も削減する必要があります」. フィンランドのエネルギー関連の排出量のうち, 82 % は居住用建物の暖房によるものです (参考文献1). 「地球規模の気候目標を達成するためには, そのすべてを置き換える必要があります」と Eronen 氏は言います.

グローバルに考え, ローカルに暖める

1960年代のマントラ 「グローバルに考え, ローカルに行動する」 の精神は, Polar Night Energy のイノベーターチームに受け継がれています. 彼らの旅は, 創業者の Tommi Eronen 氏と Markku Ylönen 氏が大学の同級生だったころに提起した質問から始まりました. 「太陽光発電だけで, エネルギー自給自足で費用対効果の高いエンジニアのためのヒッピーコミューンを作ることはできないか?」 卒業後, 彼らがコードネーム Hippie Commune と名づけたプロジェクトは, Polar Night Energy となり, Eronen 氏が CEO, Ylönen 氏が CTO に就任しました.

学生の軽い (真面目ではありましたが) 気持ちで始めたこのプロジェクトは, フィンランドのタンペレ市で3 MWh / 100 kW のパイロットプラントとなり, 2020-2021年の冬に稼働を開始しました. このシステムは, 電気で空気を温め, その空気を交換機で水を温めて循環させ, 市内のヒエダンランタ地区の複数のビルに配給しています (図2).

図2. Polar Night Energy システムの構成要素と動作サイクルの模式図.

システム内では, 電動抵抗発熱体によって空気が600 °C 以上に加熱されます. この高温の空気は, 砂を詰めた蓄熱容器の中をパイプで循環しています. 熱風は蓄熱容器から熱交換器に戻され, 水を過熱して建物の暖房システムに循環させます. この砂の蓄熱効果により, 抵抗体が冷えている時でも, 循環する空気は水 (そして建物) を暖かく保つのに十分なほど熱くなります.

「パイプとバルブとファンと電気発熱体しかないんです. 特別なものは何もないんです!」 と Eronen 氏は笑います.

砂でつくる熱の電池

著名な化学技術者である Donald Sadoway 氏の言葉があります. 「土のように安い電池を作りたいなら, 土から作るしかない」. Polar Night Energy のシステムは, 他のエネルギーインフラと同じ主要な課題に直面しています. 必要な時に, 必要な場所に, 無理のない価格で電力を供給しなければならないのです. つまり, エネルギーの貯蔵と配給は, 発電と同じくらい重要なのです. 既存のインフラは, このような課題を身近な方法で求解しようとしています. 燃焼式暖房の場合, 石油やガスなどの燃料を貯蔵し, 燃焼可能な場所まで移動させます. また, 電力網が効率的な配電をサポートし, 風力や太陽光など再生可能な手段で発電したエネルギーを利用しています. しかし, 日照時間や強風の断続的な性質は厄介な問題です. 再生可能エネルギーの入力の最大値と最小値の間で安定した出力を維持するためには, エネルギー貯蔵が必要です. しかし, 近年の電池技術の進歩にもかかわらず, 特に建物の暖房に必要な規模では, 電力を貯蔵することは比較的高価です. もし, 電気を蓄える代わりに, バッテリーが熱を蓄えることができるとしたらどうでしょう?

従来の暖房システムの多くはすでに, 温水を保持し循環させることで熱を蓄え, 分配する仕組みになっています. Eronen 氏と Ylönen 氏は, 水を使った蓄熱の利点と同時に, その限界も認識していました. 水に熱を加えても, 蒸気になるまでには限界があります」と Eronen 氏は言います. 「蒸気は熱を効率的に分散させることができますが, 大規模な貯蔵にはあまりコスト的に適していません」. 水に熱を蓄えることの欠点を避けるために, 彼らは代わりに42トンもの砂を利用したのです! (図3). 太陽が沈むと, 砂に蓄えられた熱は徐々に循環気流に放出されます. その結果, 循環する空気は高温に保たれ, お客さまのラジエーターに流れる水の温度は一定に保たれるのです. このように, 砂を利用することで, フィンランドで最も暗く寒い夜でも, 太陽光発電で暖かく過ごすことができるのです. 「砂は, 水の4倍のエネルギーを蓄えることができます」 と Eronen 氏は言います. 「砂は効率的で, 無害で, 持ち運びができ, しかも安いんです!」.

図3. Markku Ylönen 氏と, Polar Night Energy の土のように安い蓄熱材の代表的なサンプル.

シンプルな解に隠された高度な解析

コスト効率は, Polar Night Energy の価値提案の基本です. 「このアイデアを追求すると決めたときから, 私たちは価格状況を把握しようとしていました」 と Eronen 氏は言います. より少ない費用でより多くのことを実現するために, Polar Night Energy は数値シミュレーションツールに長年頼ってきました. Eronen 氏と Ylönen 氏は学生時代に COMSOL Multiphysics® ソフトウェアを使い始め, 現在も彼らの設計プロセスには不可欠なものとなっています. 例えば, Eronen 氏は, タンペレ市のより多くの建物に対応するための拡張蓄熱システムの仕様について言及しています. 人口3万5千人分の地区に熱を供給するためには, 高さ25メートル, 直径40メートルの砂を詰めた貯蔵シリンダーが必要だと計算されました. なぜこのような寸法になったのでしょうか? 「1立方メートルの砂に蓄えられる熱量がわかっているので, 大まかな必要量は簡単に計算できます」 と Eronen 氏は説明します. 「また, 砂と空気循環システムの間の効率的な熱伝達に必要な空間を決定しなければなりませんでした (図4). これはもっと難しいことなのです. 私たちは COMSOL® を使用して, さまざまな設計オプションをモデル化し, 評価しました」.

図4. Polar Night Energy の蓄熱槽のダクトを検査する Eronen 氏 (手前) と Ylönen 氏.
図5. 提案された砂, 空気蓄熱槽の内部の100時間にわたる温度変化を示すシミュレーション画像.

Polar Night Energy の熱交換器の設計は, マルチフィジックスシミュレーションソフトウェアによって形作られました (図5-6). Eronen 氏は次のように述べています. 「私たちは, 設計上のあるアイデアを検討するために特定のモデルを作成しました. 砂の超高温コアを作り, その周囲を加熱ダクトで囲んだらどうなるか?」 というアイデアです. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアを使用して流体の流れと熱伝達効果をモデル化することにより, Polar Night Energy のチームは設計の利点と欠点を比較定量化することができました. 「シミュレーションの結果, 高温コア設計は非常に長期間熱を蓄えるのに適していることが確認されました」 と Eronen 氏は言います. 「しかし, 私たちが意図する運用サイクルでは, 砂貯蔵容器全体に熱風ダクトを均等に配置する方がより理にかなっています」 と Eronen 氏は説明します.

図6. 砂貯蔵容器内のダクト内の自然対流効果のシミュレーション画像.

Polar Night Energy の砂を使った蓄熱システムの規模は非常に大きいため, シミュレーションソフトウェアが不可欠となります. 「私たちのアイデアをすべて試すために, 実物大のプロトタイプを作ることは不可能です. この装置と砂をすべて組み立てる前に, できるだけ多くの疑問に答えるための予測モデリングが必要なのです」と Eronen は言います. 「これらの非常に強力なツールを使うことは, 私たちにとって不可欠なのです」.

既存のインフラに新しい発想を取り入れる

Polar Night Energy は, 蓄熱というタスクを発熱および配熱と分離することで, より効率的でアダプト性の高いシステムを実現しました. 砂を詰めた同社の蓄熱および熱伝達システムは, 既存のインフラにレトロフィットできる大きな可能性を秘めています (図7). 人口25万人近いフィンランド内陸部の工業都市タンペレは, この新技術の理想的な実験場です. 「ヨーロッパの多くの都市と同様, 近隣全体に水を循環させる地域暖房システムをすでに備えています」 と Eronen 氏は言います. 「そのため, 多くの建物を再生可能な熱源にすばやく切り替えることができるのです」. タンペレにある Polar Night Energy のパイロットプラントでは, 新しいソーラーパネルで発電した電力と共に, 既存の電力網からの電力を利用することも可能です. 信頼性の高い蓄熱により, 最も安価な時期に発電および電力を購入し, 最も必要な時期に熱を供給することができるのです.

図7. フィンランドのタンペレ市にある Polar Night Energy が設置した熱交換システムの一部. 左側の垂直パイプは熱交換器の一部, 右側の白い断熱材に包まれたものが抵抗発熱体. これらの部品の間にあるのが, 空気循環式のラジアルブロワー.

今日はフィンランド, 明日は世界へ

2020-2021年の冬にタンペレのシステムが稼働を開始して以来, Polar Night Energy チームは, モデルと比較するためのデータを収集してきました. 「私たちのシミュレーションは非常に正確であることが証明され, 励みになります」と Eronen 氏は言います. そして, Polar Night Energy チームは, 地元でアイデアを開発させながら, 世界的な発展も目指しています. フィンランドの長く寒い夜を暖めるのと同じ技術は, 世界の他の地域にもより良いエネルギー管理の選択肢を提供することができます. 安価の蓄熱材は, 産業界や都市が現在浪費している熱を回収したり, 風力や太陽光発電の出力にばらつきがある場合のバランスをとるのに役立つでしょう. しかし, Polar Night Energy は, 潜在的な顧客と直接取引することを望んでいますが, 今後の課題は, 彼らだけで取り組むには大きすぎることを認識しています.

「この技術をライセンスしたいと思っています. 発電所を運営されている方, ぜひご連絡ください」と Eronen 氏は笑います. 今度は真面目に, 彼は次のように言います. 「バイオマスも含めて, あらゆる燃焼から脱却しなければなりません. 森林を保護し, 再生して, 空気中の炭素を除去し続けなければならないのです. 気候変動の進むスピードはとても速いので, 私たちのアイデアをできるだけ早く広めていきたいですね」.

Polar Night Energy の Tommi Eronen 氏.

参考文献

Statistics Finland, "Over one-half of Finland's electricity was produced with renewable energy sources in 2020", November 2021.