リチウムイオン電池パックの熱分布の解析

2022年 5月 11日

リチウムイオン電池は, 玩具, ドローン, 携帯電話, ノートパソコン, 医療機器, 電気自動車など, さまざまな機器の電源として使用されています. このような機器に効率よく電力を供給するためには, 最適な動作温度から逸脱すると性能の低下や故障を引き起こすため, 動作中のリチウムイオン電池内部の温度分布を制御する必要があります. リチウムイオン電池の温度分布を解析する方法のひとつに, マルチフィジックスシミュレーションがあります.

このブログでは, リチウムイオンバッテリパックの熱分布をモデル化する方法を探り, そのモデルに基づいて作成されたシミュレーションアプリについてご説明します.

電池の熱分布のシミュレーション

電池の熱モデリングは, 一般的に2つの手法で行われます:

  1. 高忠実度モデリング
  2. 集中モデリング

高忠実度モデリングを使用すると, 電池の性能と挙動を詳細に理解することができます. また, 高忠実度モデリングにより, 電池セル内の電流と電位分布,電池内のリチウムイオンの濃度と輸送,電池の劣化による容量低下,故障メカニズムなどについて把握することができます. 詳細なモデルを使用すると, 個々の電池セルについて深く理解することができますが, 大規模な電池パックの性能予測に用いるには計算コストがかかり過ぎます. また, 自動車メーカーが電池メーカーからバッテリセルを購入する場合, 高忠実度のモデルを構築するために必要なセルレベルのモデル入力パラメーターを測定したり, 入手したりすることが困難な場合があります.

バッテリパック全体をモデリングする場合,集中モデルは, より少ない入力パラメーターで,より低い計算コストで, ある程度の精度を提供します. 集中モデルは, 次のような入力パラメー ターを必要とします:

  • 電池容量
  • 初期充電状態 (SOC)
  • 開回路電圧 (OCV) 対SOC
  • 電圧損失や容量損失を表現するパラメーター

これらのパラメーターは,バッテリパックの設計者や製造者が簡単に入手できるものです. パラメーター推定を利用してこれらのパラメーターを取得する方法は,以前の説明どおりです.

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200セルからなるバッテリモジュールを“リチウムバッテリパックデザイナー”アプリでレンダリングしたイメージ図. こちらについては, このブログの最後でさらに詳しく解説します.

以下のセクションでは, 集中モデリング手法で構築したバッテリパックの熱モデルの例をご紹介します. パックのジオメトリは 3D で設定し, “集中バッテリ”インターフェースを使用して,個々のセルの熱特性を定義しています.

注: このモデルの構築のステップバイステップをすぐにご覧になりたい方は, こちらからご自由にダウンロードしてください: “円筒形バッテリパック内の熱分布

COMSOL Multiphysics® での集中モデリング手法

4C 放電時のバッテリパック内の温度分布をモデル化する方法を見てみましょう.

今回モデル化するバッテリパック (そしてモジュール) は, 6組の円筒形電池を接続して6セル直列2並列 (6s2p) 構成としたもので, 玩具や医療機器などの携帯機器によく使われるものです. なお, 同じ手順で数百個の電池をモデル化することも可能です. 例えば自動車のバッテリモジュールの場合, 上のバッテリモジュールの図をご覧ください.

2つの対称面を使用することで,3つのバッテリセルに対してのみ温度分布を計算する必要があります. それぞれの熱源を定義するために, “集中バッテリ”インターフェースのインスタンスを3つ追加し, 1つの“伝熱”インターフェースにカップリングします.

3つのバッテリセルとその寸法を示したモデル.
ジオメトリモデル

パック内の電池の位置は, 動作温度に影響します. このモデルでは, 3つの21700電池シリンダー (直径21 mm, 高さ70 mm) が互いに隣接して配置されています. 6s2p の構成に従って,シリンダーの上部と下部にアルミニウムの小さな接続ストリップがあります. パック全体はプラスチックで包まれ, 空気で満たされたドメインが形成されていると仮定します. 各セルの公称容量を4 Ah, 公称電圧を3.7 Vとすると, このバッテリパックの公称総容量は約178 Wh です.

個々のバッテリシリンダーをモデル化するために使用される各 “集中バッテリ”インターフェースは,温度に依存したオーミックパラメーター, 交換電流パラメーター, および拡散時定数パラメーターを備えています. 温度プロファイルは“伝熱”インターフェースを使用してモデリングし, 電池モデルから生じる熱源は“電気化学加熱”マルチフィジックスノードを使用して追加します. そのため,各セルには個別の集中モデルがあります.

このモデルでは,電池周辺の空気で満たされたドメインでの対流を無視し,静止状態を仮定します. バッテリパックの外側の境界は,対流冷却条件によって冷やされます. バッテリパックの残りの部分に面する内部の平らな対称境界については,対称 (フラックスなし) 条件を使用します.

各電池セル内の熱伝導率は異方性であり, 電池内部の金属箔, 電極, セパレーターからなるゼリーロールの構造に従って, 各電池シリンダーの円筒座標系を介して定義されます. ゼリーロールは金属箔が螺旋状に巻かれているため, 角度方向およびz方向に比べて半径方向の熱伝導率が低くなっています.

このパックは, 4C レートで 100% から 20% のSOCまで12分間放電されます. 温度とセル電位のプローブを異なるセルに追加し, 結果を視覚的に表現しながら解くことができます.

 

12分後のバッテリパックの表面温度.

バッテリパックの最内部は最外部より 2℃ ほど温度が高いことがわかります. これは, より大型のバッテリモジュールでは数十℃ にもなることがあります.

下の左側のプロットでわかるように, 一番外側のセル (セル1) の放電電圧が少し低くなっていますが, これは温度が低い分, 抵抗損や交換電流がわずかに小さくなり, 拡散時定数がわずかに大きくなった結果です.

セル電圧
xy-graph上の3本の曲線で色分けされたプロット線は, セル1 (青), セル2 (緑), セル3 (赤)での経時的なセル温度の減少を表しています.

放電中の個々のセル電圧 (左) と, 経時的なセル平均温度 (右).

200 セルのバッテリパックのモデル化

前述したように, バッテリパックのモデルは 6s2p の構成ですが, 次項の”リチウムバッテリパックデザイナー”アプリを使えば, 数百個のセルを持つバッテリパックをモデル化することも可能です. このアプリを使うと, 与えられた動作電流に対して問題を求解するのに1分もかかりません!

リチウムバッテリパックデザイナー”アプリでレンダリングした, 200セルのバッテリパックの3Dモデル.
アプリで構築した200個のセルからなるバッテリパックのモデル. 

シミュレーションアプリによる電池設計プロセスの最適化

COMSOL® ソフトウェアの強力な計算機能は, シミュレーションの専門家ではないユーザーも利用することができます. COMSOL Multiphysics の”アプリケーションビルダー”を使用すると, シミュレーションの専門家は, モデル 構築に関連する詳細を省き, ユーザーが制御したいパラメーターのみに焦点を当てたユーザーフレンドリーなアプリを作成することができるのです.

ユーザーフレンドリーなシミュレーションアプリの一例として,アプリケーションライブラリにある”リチウムバッテリパックデザイナー”アプリがあります. 実験データを用いて,抵抗過電圧,拡散時定数,無次元交換電流などのバッテリセルパラメーターをまず推定することができます. 次に, ユーザーはパック設計パラメーター (パックタイプ, 電池の数, 構成, ジオメトリ), 電池材料特性, 動作条件を選択します. 最後に, 選択したパックデザインのパラメーター化された電池セルモデルを使用して, バッテリパック全体の動的電圧と熱挙動をシミュレーションすることができます.

リチウムバッテリパックデザイナー”アプリのUIのスクリーンショット. “グラフィックス”ウィンドウにバッテリパックのモデルが表示されています.
リチウムバッテリパックデザイナー”アプリ.

次のステップ

モデルファイルとシミュレーションアプリをダウンロードして, リチウムイオン電池の熱性能のモデリングをお試しください:

関連資料

リチウムイオン電池のモデリングについてもっと知りたい方は, 以下の関連資料をご覧ください:

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