赤外線を使った用途のための反射防止微細構造の設計

2021年 6月 29日

赤外線 (IR) は, 赤外線イメージング, ナイトビジョン, 生物医学センサーなど, さまざまな分野で応用されています. IR カメラのレンズや窓では, 使用される材料の屈折率が高いため, 光のかなりの部分が反射してしまいます (シリコンでは約30 %, テルル化カドミウム亜鉛では約21 %). このような課題を克服するための従来のアプローチは, 多層の誘電体コーティングを使用することですが, これには, 帯域幅の制限, 狭い受光角, 高温で動作中の薄い層間の接着力の損失 (レーザーなど) といった課題があります. このような課題に対応する一つの方法は, 赤外スペクトル内の透過率を高めるために, レンズや窓の上面を特定のパターンでエッチングすることです. しかし, レンズや窓にエッチングされたさまざまなパターンの透過率を分析するには, 製品を完成させる前に何度も設計を繰り返す必要があります.

編集者注: このブログは2021年11月9日に更新され, 微細構造の広帯域最適化に関する説明が追加されました.

反射防止微細構造のさまざまな設計パターンのシミュレーション

シミュレーションは, 高い製造コストの問題に対処する最も賢明な方法のひとつです. さまざまの複雑なパターンをシミュレーションし, 最終プロトタイプの透過率を高め, 製造に使用することができます. このブログでは, 2つの微細構造設計によって, シリコン (~70 %) とテルル化カドミウム亜鉛 (~79 %) のバルク透過率を, 特定の波長スペクトル内で90 % 以上に向上させる方法を探ります. 2つの微細構造設計は次のとおりです. シミュレーションは, 高い製造コストの問題に対処する最も賢明な方法のひとつです. さまざまの複雑なパターンをシミュレーションし, 最終プロトタイプの透過率を高め, 製造に使用することができます. このブログでは, 2つの微細構造設計によって, シリコン (~70 %) とテルル化カドミウム亜鉛 (~79 %) のバルク透過率を, 特定の波長スペクトル内で90 % 以上に向上させる方法を探ります. 2つの微細構造設計は次のとおりです:

  1. 矩形
  2. ピラミッド型

下図に示すように, バルクシリコンの上部に矩形微細構造のアレイをエッチングすることができます. しかし, バルクシリコンの上に矩形微細構造のアレイをモデル化する代わりに, 周期的な条件とともに単一の単位セルをシミュレーションすることができます. このアプローチを使うと, 結果の精度を損なうことなく, モデルの計算時間を大幅に短縮できます. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアで3D単位セルを解析することはできますが, 解析を簡略化し, なおかつ多くの洞察を得るために, 代わりに3D単位セルモデルのシンプルな2D断面をモデル化するアプローチをご紹介します.

バルクシリコンを青い立方体で, バルクシリコン上の矩形微細構造アレイを緑の長方形で可視化し, 構造全体から1つの単位セルを取り出し, その周期条件を示した3つの並んだ画像.
バルクシリコンは, バルクシリコン上の矩形微細構造のアレイで置き換えることができます. 周期的条件を持つ単位セルモデルは, バルクシリコン上の矩形微細構造のアレイを複製します.

シリコン基板を備えた矩形微細構造

シリコンのバルク透過率は約70%と推定されます. 残りの30%は反射され, 環境中で失われます. このセクションでは, Si 基板の上面にエッチングされた矩形微細構造のアレイが, 2.6 μm から4.5 μm の赤外スペクトルで動作しながら, 透過率を90%以上向上させる方法について解説します. また, 異なる入射角 (0–80°) での矩形微細構造でエッチングされたバルク Si の透過率も解析します.

矩形のエッチングパターンは, 完全なシリコンバルク基板上で実行されます. ただし, 簡単にするため, ここでは下図に示すような2D断面の単位セルモデルを見ていきます. 矩形パターンの高さと幅は, 単位セルのピッチとともに, 2.6 μm と4.5 μm の範囲で透過率プロファイルを変更できます.

このモデルでは, 単位セルのピッチを780 nm, 矩形の高さと幅をそれぞれ450 nm と125 nm としています. 単位セルのどちらの側にもフロケ周期条件が適用できます. ポートの種類を周期的に設定したポート条件は, z 方向 (面外) に偏光し, -y 方向 (下向き) に伝搬する電磁平面波を発射するように選択できます. 高次回折を考慮するため, ポート2に面外 (m =±1) の回折次数が追加されます.

矩形微細構造単位セルの境界条件の概略図. 周期条件, ポート, 空気, シリコンが示されています.
矩形微細構造の単位セルを設定するための境界条件.

まず, 2.6 μm から4.5 μm まで0.1 μm ステップでスイープしながら波長領域スタディを実行します. 次に, 動作波長を3 μm として, 入射角 (ポート境界条件に記載) を 0〜80° の間で 1° ステップでスイープしながら波長領域スタディを実行します. バルクシリコンからの透過率 (~69 %) は, 垂直入射で2.6 μm と4.5 μm の範囲内で92 % 以上に改善されることが観察できます. 入射角スイープスタディでは, 40° を超えると透過率が大幅に低下します.

反射防止微細構造の一種であるシリコン基板について, 動作波長が変化したときの透過率をプロットした折れ線グラフ.
動作波長を変化させたシリコン矩形微細構造の0次透過率.

3 um で動作させた場合のシリコン微細構造の透過率をプロットした折れ線グラフ.
入射角に対して3 μm で動作中のシリコン矩形微細構造の0次透過率.

テルル化カドミウム亜鉛基板を備えたピラミッド型微細構造

テルル化カドミウム亜鉛 (CZT) のバルク透過率は約79%と推定されます. 残りの21%は反射され, 環境中で失われます. このセクションでは, CZT 基板の上にエッチングされたピラミッド型微細構造が, 7 μm ~ 14 μm の赤外スペクトルで動作しながら, 透過率を90%以上に高める方法について解説します. また, 異なる入射角 (0–80°) に対するピラミッド型微細構造でエッチングされたバルク CZT の透過率も解析します.

このモデルでは, 単位セルのピッチを2.4 μm, ピラミッドの高さを5 μm としています. ピラミッドの上端の幅は100 nm としています. ここでも, フロケ周期条件は単位セルの両側に適用され, ポート条件, 周期タイプは, z 方向 (面外) に偏光し, -y 方向 (下向き) に伝搬する電磁平面波を発射するように選択できます. 高次回折を考慮するために, ポート2に面外 (m =±1) の回折次数が追加されています.

周期条件, ポート, 空気, シリコンが示された, ピラミッド型微細構造単位セルの境界条件の概略図.
ピラミッド型微細構造の単位セルを設定するための境界条件.

まず, 7 μm から14 μm まで0.2 μm ステップでスイープしながら波長領域スタディを実行します. 次に, 動作波長を7.5 μm として, 入射角 (ポート境界条件に記載) を 0 〜80° の間で 1° ステップでスイープしながら波長領域スタディを実行します. バルクシリコンからの透過率 (~79 %) は, 垂直入射で7 μm と14 μm の範囲内で94 % 以上に改善されることが観察できます. 入射角スイープスタディでは, 透過率は 27° を超えると大幅に低下します.

動作波長が変化した場合の CZT 微細構造の透過率をプロットした折れ線グラフ.
動作波長を変化させた CZT ピラミッド微細構造の0次透過率.

 7.5 um で動作させた場合の CZT 微細構造の透過率をプロットした折れ線グラフ.
入射角に対して7.5 μm で動作中の CZT ピラミッド型微細構造の0次透過率.

微細構造の広帯域最適化

さらに, 矩形およびピラミッド型の広帯域透過率をさらに改善できるかどうかという疑問が生じます. この疑問に答えるため, 矩形およびピラミッド型微細構造に対して, 以下の目的関数を定義することにより, 勾配のない広帯域最適化を設定します.

\[ \text{Objective function} = \sum_{\lambda=\lambda_{min}}^{\lambda=\lambda_{max}} \left( \frac{T_e – T_t}{T_e} \right)
^2 \]

 
ここで, \lambda_{min}\lambda_{max} はそれぞれ動作波長の最小値と最大値, T_e = 100*realdot(ewfd.S21,ewfd.21) = 100*|ewfd.S21|2T_t = 100 です. 目的関数は, スペクトル全体における透過率を, 目標とする透過率100 % に近づけるように最適化しようとするものです.

矩形微細構造の場合, 上記の目的関数は2つの制御パラメーター w_{pillar} (柱の幅) と h_{pillar} (柱の高さ) で設定され, これらは次の制約条件に従います.

w_{pillar}^L < w_{pillar} < w_{pillar}^U
h_{pillar}^L < h_{pillar} < h_{pillar}^U

 
ピラミッド型微細構造については, 同じ目的関数が3つの制御パラメーター wb_{pyramid} (ピラミッド底部の幅), wt_{pyramid} (ピラミッド上部の幅), h_{pyramid} (ピラミッド高さ) で設定され, これらは次の制約条件に従います.

wb_{pyramid}^L < wb_{pyramid} < wb_{pyramid}^U
h_{pyramid}^L < h_{pyramid} < h_{pyramid}^U

 
添え字の L と U は制約の下限と上限を表します.

広帯域最適化の完全な詳細は, チュートリアルモデルに記載されています. 最適化スタディは, 下限から上限までの範囲内で制御パラメーターを変化させて目的関数を最小化するように設定されています. 矩形微細構造では, 広帯域最適化は2.5 μm から4.5 μm の間で実行され, ピラミッド型の微細構造では, 広帯域最適化は7 μm から14 μm の間で実行されています.

元のジオメトリおよび最適化されたジオメトリに対する勾配なしの広帯域最適化の結果を図に示し, 以下の表にまとめています.

矩形微細構造について, 元のジオメトリと最適化されたジオメトリの透過率を比較したグラフ.
COMSOL Multiphysics でピラミッド型微細構造の元のジオメトリと最適化されたジオメトリの透過率を比較したプロット.

矩形 (左) とピラミッド型 (右) の微細構造の元のジオメトリと最適化されたジオメトリの透過率の比較.

以下の表は, 矩形微細構造のジオメトリパラメーターをまとめたものです:

パラメーター 元のジオメトリ 最適化されたジオメトリ
柱の太さ 50 nm 111.32 nm
柱の高さ 100 nm 461.67 nm

以下の表は, ピラミッド型微細構造のジオメトリパラメーターをまとめたものです:

パラメーター 元のジオメトリ 最適化されたジオメトリ
ピラミッド上部の幅

50 nm 50 nm

ピラミッド底部の幅

0.5 μm 0.9 μm
ピラミッドの高さ 0.5 μm 2.25 μm

おわりに

シミュレーションを使用して, 矩形シリコン微細構造は, 2.6 μm と4.5 μm のスペクトルの間で, バルクシリコンの透過率 (~70%) を90%以上に向上させることができ, ピラミッド型 CZT 微細構造は, 7 μm と14 μm のスペクトルの間で, バルク CZT の透過率 (~79%) を94% 以上に向上させることができました. また, 矩形シリコンとピラミッド型 CZT 微細構造の両方で, 入射角が大きくなると透過率が低下することが観察できました. これらの微細構造の広帯域透過率は, このブログで説明したように, 勾配のない広帯域最適化を実行することでさらに向上させることができます.

次のステップ

赤外波長用の微細構造反射防止コーティングのモデリングを試してみますか? 下のボタンをクリックすると, ここで取り上げたモデルの MPH ファイルにアクセスできます.

 
以下の関連チュートリアルモデルも試してください:

参考文献

  1. D.S. Hobbs, B.D. MacLeod, “Design, fabrication, and measured performance of anti-reflecting surface textures in infrared transmitting materials,” Proc. SPIE 5786, Window and Dome Technologies and Materials IX, pp. 349–364, 2005.

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