CFD モジュールアップデート

CFD モジュールのユーザー向けに, COMSOL Multiphysics® バージョン5.6は, 2つの新しい流体流れインターフェース, 乱流強度と乱流長さスケールの新しいオプション, また, 様々な選択の自動処理をもたらします. これらおよびその他の新しい CFD 機能の詳細については, 以下をご覧ください.

マルチコアおよびクラスター計算のパフォーマンス改善

COMSOL Multiphysics® バージョン5.6では, 求解プロセスのパフォーマンスがいくつか改善されています. 特に, ヤコビ行列アセンブリと代数マルチグリッド前処理行列の必要メモリが低減されます. この低減は, マルチコアとクラスター計算の両方で重要です. さらに, マルチグリッド法で使用される最も重要なスムーザーは, 特にクラスター計算においてより効率的になりました.

改善の例として, 乱流を特徴とする Ahmed Body の次の CFD ベンチマークを見てください. ベンチマークで使用されたモデルは, アプリケーションギャラリバージョンと比較して細分化されたメッシュを備えており, 16ノードクラスターで630万の自由度があります. この比較では, COMSOL Multiphysics® バージョン5.5アップデート3とバージョン5.6とで各ノードに48コア (2x Intel® Xeon® Platinum 8260 24コア) があるクラスターにインストールされています. 比較に使用されたソルバーは, 対称 Coupled Gauss-Seidel スムーザー (比較グラフではMGと表示) を使用した GMRES のプリコンディショナーとしての代数マルチグリッドソルバー (SA-AMG) です. さらに, 重複領域分割 (Schwarz) 法は, ドメインソルバー (DD と表記) としてのマルチグリッド法を使用した GMRES のプリコンディショナーとして使用されます. 以下のグラフは, 計算時間とノード数, およびメモリ使用量とノード数としてのパフォーマンスを示しています.

A 3D model of an Ahmed body, visualized with a metallic sheen, and yellow, green, turquoise, and blue streamlines, and a white mesh around it.
Ahmed Body 周りの流線と垂直断面におけるメッシュ

A chart of time from 0 to 1800 seconds vs. number of nodes from 1 to 16 and blue lines for COMSOL Multiphysics version 5.5 update 3 and yellow lines for version 5.6.
Ahmed Body ベンチマークモデルの微細化メッシュのバージョンの実時間計算時間.

A chart of memory from 0 to 5000 MB vs. number of nodes from 1 to 16 and blue lines for COMSOL Multiphysics version 5.5 update 3 and yellow lines for version 5.6.
Ahmed Body ベンチマークモデルの細分化メッシュのバージョンの物理メモリの使用.

圧縮性分散混相流

多くの自然現象, 製造プロセス, および分離プロセスには, 粒子, 気泡, または液滴が連続相によって輸送される分散混相流が含まれます. 任意の数の分散相を可能にする相輸送, 混合モデルインターフェースが, 圧縮性混合物の流れをサポートするように改訂されました. これらの流れインターフェースでは, ドメインの変形と回転のサポートも改善 されています. さらに, 相輸送 (混合モデル) インターフェースは, 分離および分散モデリングアプローチを組み合わせたシミュレーションでレベルセット法と一緒に使用できるようになりました. この更新された配合機能は, 新しい Droplet Rising Through a Suspension で確認することができます.

懸濁液中を上昇する油滴. 懸濁液は最初は層状になっており, 2つの透明な層の間に高密度の層があり, 液滴は最初は下部の透明な層にあります. このモデルでは, 分散混相流モデルとレベルセットモデルの組み合わせを確認することができます.

非等温混合モデル

核沸騰やキャビテーションプロセスなど, 液体中で気泡が形成されるプロセスをシミュレートするには, 混相流と熱伝達を組み合わせる必要があります. 新しい非等温混合モデルインターフェースでは, まさにこの機能を提供しています. 新しい非等温流, 混合モデル, および非等温混合モデルのマルチフィジックスカップリングノードを使用して, 層流または乱流 (RANS) インターフェース, 相輸送インターフェース, および伝熱 (流体) インターフェースをー連成します. すべての RANS 乱流モデルは, 非等温混合モデルインターフェースでサポートされています.

A cylindrical annulus model with the inside exposed and a heat camera color table visualizing the temperature, streamlines denoting bubble flux, and a color gradient from dark blue to white showing the bubble volume fraction.
円筒形の環で沸騰する核. 内筒の温度, 気泡の体積分率, 気泡流束の流線を図に示します.

浅水方程式

浅水近似は, 津波の影響, 汚染, 海岸侵食, 極地の氷冠融解の影響を受ける地域の影響を予測するために, 海洋および大気のアプリケーションで頻繁に適用されます. 新しい浅水方程式 (陽的時間発展) インターフェースにより, 深さ平均の定式化を使用して, 1D および 2D ドメインの自由表面の流れを求解できます. モデルの下部の地形は, 数値標高モ デル (DEM) から簡単に定義できます. この機能は, Tsunami Runup onto a Complex 3D Beach, Monai Valley のチュートリアルモデルで確認できます.

浅水方程式 (陽的時間発展)インターフェースでシミュレートされた津波の影響.

全圧条件

ポンプシミュレーションなどの特定のアプリケーションでは, 入口と出口の境界の全圧 (または停留圧) を指定する方が便利です. COMSOL Multiphysics®バージョン5.6には, 非圧縮性流れの入口と出口に全圧の点ごとの値または平均値を課すためのオプションが含まれています.

A model of a fan in a brown tunnel with airflow around the blades and behind the fan.
ファンブレードから発生する循環. 平均全圧条件は, 入口と出口の境界に課せられます.

相界面全体の流体特性の新しい平均化オプション

2相流シミュレーションの密度および/または粘度比が大きい場合, 相界面全体で体積平均流体特性を使用すると, 過度のスミアリングが発生する可能性があります. 流体特性の遷移ゾーンをシャープにするか, 2つの相のいずれかに移動すると, 精度や収束が向上する場合があります. バージョン5.6では, 平滑化されたヘヴィサイド関数と調和体積平均を密度と粘度の両方に使用できます. 粘度については, 質量平均化と調和質量平均化もオプションとして利用できます.

A 1D plot with a blue line for volume average, green for Heaviside function, red for harmonic volume average, turquoise for mass average, and magenta for harmonic mass average.
空気-水界面全体の粘度を平均化するためのさまざまなオプション

乱流条件の新しいオプション

流入口と開放境界の乱流強度には, 低 (0.01), 中 (0.05), 高 (0.1) の3つの新しいオプションが用意されています. 流入口の乱流長さスケールの新しいジオメトリベースのデフォルトオプションもあります. このオプションは, 入口の水力直径を自動的に計算し, 乱流長さスケールを水力直径の0.07倍に設定します. これは, パイプおよび流路内の完全に発達した乱流の推奨値です.

The Inlet settings for Turbulent Flow in COMSOL Multiphysics version 5.6, with the Velocity and Turbulence Conditions sections expanded and a hydrocyclone model in the Graphics window.
設定ウィンドウに表示される乱流強度と乱流長さスケールの新しいオプション

互いに素な選択の自動処理

流入口と流出口での完全に発達した流れ, および流入口での質量流の場合, 互いに素な境界で構成される選択を単一の境界フィーチャ内で処理できます. この新しいデフォルトオプションは, 選択範囲内の連結成分ごとに1つの方程式を追加します. 互いに素な選択で接続されたコンポーネントは自動的に検出されます.

A model of a multijet shown as partially transparent for an inside view.
重合マルチジェットモデルが更新され, 互いに素な選択の新しいオプションが追加されました. 2種類の流入口に別々の方程式が追加されます.

新しい多孔質媒体の機能

多孔質媒体を処理するための新しい機能は, さまざまな相 (固体, 流体, および不動流体) を定義するために使用できます. 伝熱 (多孔質媒体) インターフェースでは, 多孔質媒体機能を使用して, 各相専用のサブ機能 (流体, 多孔質マトリックス, およびオプションで不動流体) を使用して材料構造を管理します. この新しいワークフローにより, 明確さが増し, ユーザー体験が向上します. また, より自然な方法で多孔質媒体内のマルチフィジックス連成を促進します. 水分輸送および多孔質媒体流れのインターフェースと組み合わせることで, 多孔質媒体の改良における熱伝達により, 多孔質媒体における非等温流と潜熱貯蔵のモデリングが可能になります.

この新しいセットアップは, 次のモデルで確認できます:

The Porous Medium feature settings in COMSOL Multiphysics version 5.6 with the Effective conductivity options shown and Reciprocal average highlighted.
流体, 固体, および不動の流体が多孔質媒体の熱伝達インターフェースの多孔質媒体機能と組み合わされた多孔質材料. 設定ウィンドウには, 多孔質媒体のさまざまな相からの有効熱伝導率を定義するモデルの選択が表示されます.

流体の熱伝達における理想気体材料の自動検出

さまざまな伝熱インターフェース内で利用可能な流体機能が更新され, 理想気体の仮定を利用して計算効率が向上しました. 流体タイプリストの新しい[材料から]オプションは, 各ドメイン選択に適用された材料が理想気体であるかどうかを自動的に検出し, いずれの場合にも関連する特性を使用します. これにより, たとえば, 圧縮性の非等温流での圧力仕事を計算するときに, 計算が高速化されます. COMSOL Multiphysics® および 材料ライブラリで利用可能なガスは理想気体としてモデル化されているため, 圧縮性の非等温流を備えた多くのモデルがこの改善により, 効率化されるでしょう.

A model of an LED bulb visualizing the velocity around the bulb in a color gradient from dark blue to white and the temperature in the bulb using the heat camera color table.
LED電球の温度分布 (表面プロット) と速度 (矢印と流線). 理想気体の配合を自動的に使用することにより, COMSOL Multiphysics® バージョン5.6の計算時間は10%短縮されます.

熱とエネルギーのバランス

エネルギーと熱のバランスを定義するためのポスト処理変数が拡張され, 新しい構成がカバーされるようになりました. 具体的には, 変数は, 非等温流, 面外熱源, 体積力, 粘性散逸, 圧力の仕事, 境界応力, およ び内壁の法線速度がゼロ以外の場合のエンタルピーフラックスに関するものです. ポスト処理変数またはエネルギーと熱のバランスの定義も, 層状材料に拡張されました. エネルギーと熱のバランスは, シミュレーションの精度をチェックするためのソルバー誤差推定の代替基準で見ることができます. この機能は, Electronic Chip Cooling モデルで実証されています.

The COMSOL Multiphysics 5.6 UI with the Global Evaluation settings shown for a cross-flow heat exchanger model, which is shown in the Graphics window in a color gradient from dark red to white to indicate temperature in degrees Kelvin.
クロスフロー熱交換器モデルのエネルギーバランスの検証. ホットインレットに入る合計正味エネルギー率は, モデル全体のエネルギーバランスと比較されます.

より簡単になったフェーズフィールドモデルとレベルセットモデルの設定

レベルセットおよびフェーズフィールドインターフェースが再構築されました. 2つの初期値ノードがデフォルトで追加され, 以前に使用されていた初期インターフェース機能が削除されました. 代わりに, 初期インターフェースは, 初期相が異なる2つの初期値ノード間の境界に自動的に配置されます.

初期値の設定, 流体2機能. 初期インターフェース機能は不要になったことに注意してください. レベルセットまたはフェーズフィールド関数の初期分布は, 相初期化スタディステップで求解されます.

新しいチュートリアルモデル

COMSOL Multiphysics® バージョン5.6では CFD モジュールにいくつかの新しいチュートリアルモデルが追加されました.

懸濁液を通して上昇する液滴

An orange droplet rising through a gray suspension in a column.
2つの透明な流体層の間にある高密度の懸濁液を通って上昇する油滴

アプリケーションライブラリタイトル:
droplet_rising_through_a_suspension
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ポリマー電解質メンブレイン電解槽

A model of an electrolyzer with the volume fraction of oxygen visualized in a dark blue to white color gradient.
プリマ―電解質メンブレイン電解槽内の酸素の体積分率
アプリケーションライブラリタイトル:
polymer_electrolyte_membrane_electrolyzer
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柱のダム決壊, 浅水方程式

A model of a gray square column with blue water breaking on the column.
水波が柱に与える影響の浅水方程式シミュレーション

アプリケーションライブラリタイトル:
dam_break_column_sw
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藻内渓谷の複雑な3Dビーチへの津波の遡上

A model of a gray beach and blue water representing tsunami runup.
ビーチへの津波の遡上の浅水方程式シミュレーション

アプリケーションライブラリタイトル:
monai_runup
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