金属プロセスモジュール

機械部品の冶金学的相転移をシミュレートする

鋼や鋳鉄などの材料が高温から加熱または冷却されると, 冶金学的な相転移が発生する可能性があります. 金属プロセスモジュールは, シミュレーションソフトウェア COMSOL Multiphysics® のアドオン製品であり, これらの相転移が材料の機械的および熱的特性にどのような影響を与えるかを研究するのに役立ちます. このモジュールには, 意図的に発生する相転移 (鋼の焼入れや浸炭など) や, 意図せずに発生する相転移 (積層造形や溶接など) をモデル化する機能が含まれています. 組込みのマルチフィジックス機能により, 相組成を最適化することで部品の性能を向上させることができます.

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赤, 白, 青で示された小さなスライスを備えた灰色の金属製平歯車モデル.

鋼の焼入れ

鋼の焼入れとは, 完全オーステナイト状態に加熱された鋼部品を急速に冷却する熱処理プロセスです. 鋼の焼入れは, オーステナイトの分解, 伝熱, 構造解析を組み合わせたマルチフィジックスプロセスでもあります. 金属プロセスモジュールは, このマルチフィジックスプロセスのモデル設定を容易にするための特殊な機能を提供します.

解析を実行した後, 相組成と, 部品の焼入れ中の最終的な歪みと残留応力に対する冷却速度の影響を調べることができます. これらの結果から, 特定の焼入れ剤の有効性や, 部品の物理的なジオメトリが内部で達成可能な相組成にどのように影響するかを知ることができます.

浸炭

浸炭のプロセスとは, 鋼製部品を加熱し, 一酸化炭素などの炭素を多く含む環境にさらすことです. 周囲の環境からの炭素の拡散は, 時間に依存した拡散プロセスにより, 境界を通って材料内に発生します. 浸炭解析を行うことで, プロセスが正しく行われていることを確認することができます. 浸炭後に焼入れを行うと, 部品の表面に圧縮応力が発生するため, 疲労のリスクを軽減することができます.

アニーリング

塑性変形を受けた鋼の加熱をモデル化することが多くの場合必要になります. 十分な高温にさらされると, 鋼は以前の加工硬化を失うため, この影響を計算モデルに含める必要があります. 金属処理モジュールを非線形構造材料モジュールと組み合わせると, アニーリングモデリング機能が提供されます. これらにより, アニーリング温度の指定が可能になります. この温度以上では, 塑性硬化変数のリセットによって鋼の以前の加工硬化が除去されます.

このモデリング機能は, マルチパス溶接などの熱サイクルを伴うシナリオで特に役立ちます. このような状況では, 材料の残留応力状態はその塑性履歴によって大きく影響されます.

金属プロセスモジュールの特徴と機能

3D, 2D, 2D 軸対称体での冶金学的相転移や関連現象をモデル化します.

相変態設定のクローズアップビューとオーステナイト相分率の2D プロット.

金属相転移

金属相転移インターフェースは, 加熱または冷却中に鋼などの材料で発生する冶金学的相転移を研究するために使用します. 冶金相機能を使用すると, 初期相の割合と材料特性を定義できます. 相転移機能を使用すると, ソース相, 行先相, および相転移モデルを定義できます.

オーステナイトがフェライトに分解する場合など, 拡散律速の相変態には, Leblond–DevauxJohnson–Mehl–Avrami–Kolmogorov (JMAK) の2種類の相転移モデルが用意されています. 変位 (拡散のない) マルテンサイト相転移をモデル化するために, Koistinen–Marburger モデルが利用可能です.

オーステナイト分解ノードが強調表示され, グラフィックウィンドウに平歯車モデルの応力が表示されたモデルビルダーのクローズアップビュー.

オーステナイト分解

オーステナイト分解インターフェースは, 金属相転移インターフェースの特殊バージョンで, オーステナイト状態から鋼を急速に冷却する際のオーステナイト分解をモデル化するために使用されます. このインターフェースには, オーステナイト, フェライト, パーライト, ベイナイト, マルテンサイトといった冶金相と, 焼入れプロセス中に発生する可能性のある相転移が自動的に含まれます.

炭素濃度の結果ノードが選択され, グラフィックウィンドウに鋼歯車が表示されたモデルビルダーのクローズアップビュー.

浸炭

浸炭インターフェースは, 熱処理中の浸炭プロセスをモデル化するために使用されます. このインターフェースでは, 周囲の環境の炭素濃度を定義し, 炭素が表面を移動する方法を指定し, 炭素がコンポーネント内でどのように拡散するかを定義することができます.

最適化ノードが強調表示され, グラフィックウィンドウに TTT 図が表示されたモデルビルダーのクローズアップビュー.

相転移モデルの校正

独自の相転移モデルを定義してシミュレーションで使用する場合, 特定の相転移について実験的な校正が必要になることがあります. 共通の相転移図を計算して, 連続冷却変換 (CCT) や時間‐温度変換 (TTT) 図などの実験データに対する校正を容易に行うことができます. なお, TTT データに対する校正には, 最適化モジュール が必要であることにご注意ください.

相転移潜熱ノードが強調表示され, グラフィックウィンドウの丸棒の温度が表示されたモデルビルダーのクローズアップビュー.

相転移を伴う熱伝達

相転移を伴う熱伝達マルチフィジックスインターフェースを使用して, 熱負荷中の冶金学的相変態をモデル化できます. 金属プロセスモジュールは, 解析で完全な熱方程式を使用して熱伝達をモデル化する機能を備えています. 潜熱を考慮するために, マルチフィジックスカップリングが自動的に設定されます. 熱伝導率, 密度, 比熱容量は, 温度に依存することがあり, 現在の相組成に依存することもあります. たとえば, オーステナイトの熱伝導率はフェライトの熱伝導率とは異なり, 相分率が変化すると, 化合物材料の熱伝導率も変化します.

グラフィックウィンドウに3つの物理ノードが強調表示され, 鋼ビレットの3つのモデル結果が表示されたモデルビルダーのクローズアップビュー.

鋼の焼入れ

鋼の焼入れシミュレーションを自動的に設定する, 事前定義された鋼の焼入れマルチフィジックスインターフェースを用意しています. このインターフェースには, オーステナイト分解インターフェース, 固体力学インターフェース, 固体の熱伝達インターフェースが追加されます. マルチフィジックスカップリングが自動的に設定され, 個々の冶金相の相変態ひずみや潜熱を考慮することができます.

金属プロセスモジュールは, 非線形構造材料モジュールと組み合わせることで, 焼入れ時の応力とひずみを詳細に計算することができます. 個々の冶金相の塑性ひずみが含まれており, 塑性回復オプションと非線形加重スキームを使用して, 複合材料の有効初期降伏応力をモデル化できます. 各相の熱ひずみテンソルの計算には, 体積基準温度と熱膨張係数が使用されます. 降伏応力以下の応力で材料の非弾性ひずみが発生し, 古典的な塑性の意味での塑性流動が起こらない場合, 変態誘起塑性 (TRIP) 効果も解析できます.

金属相転移ノードが強調表示されたモデルビルダーのクローズアップビューと, グラフィックウィンドウの丸棒の結果.

相および化合物の材料特性

金属相転移およびオーステナイト分解インターフェースでは, 個々の冶金相の材料特性に基づいて有効な材料特性を計算することができます. これらの有効な特性は, 固体の熱伝達や固体力学などの他のインターフェースで透過的に利用することができます. 材料特性は各冶金相に対して個別に定義され, ソフトウェア JMatPro® からインポートするオプションもあります.

鋼の相転移のモデリングに加えて, 積層造形で頻繁に使用されるチタン合金などの金属をモデリングでき, 独自の相転移モデルを自由に定義することができます.

金属プロセスモジュールでモデリングの幅を広げる

COMSOL Multiphysics® に金属プロセスモジュールを追加すると, 製品群の他の製品と同様に, その機能がモデリングワークフローに完全に統合され, 他のモジュールと組み合わせて使用することができます. たとえば, 金属プロセスモジュールを以下のモジュールと組み合わせることができます.

  • 焼入れシミュレーションにおける残留応力とひずみの詳細なスタディを実行する 非線形構造材料モジュール.
  • 焼入れ時の熱輻射効果を取り入れる 伝熱モジュール.
  • 誘導加熱シミュレーションから計算された温度場を焼入れシミュレーションへの入力として使用する高周波焼入れシミュレーションを実行する AC/DC モジュール.

どのビジネスもシミュレーションニーズもそれぞれ違います. COMSOL Multiphysics® ソフトウェアがお客様のご要望を満たすかどうかをきちんと評価するために, 我々にご連絡ください. 我々のセールス担当と話をすれば各個人に向いたお勧めや, しっかり文書化されたモデルなどをお送りすることができ, 最大限の評価結果を引き出すことができます. 最終的にどのライセンスオプションがあなたの要望にとって最適かを選択することができます.

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